魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています

23 波乱

「アリーセ。ゆっくり休めたか?」

 翌日。朝食の場であったレナールは、アリーセの姿を見るなり駆け寄ってきた。顔色を確かめるように覗き込んでくる。
 アリーセの脳裏によぎるのは、昨日額にキスされたこと。
 なんだかんだで思ったより疲れていたらしく、昨日はベッドに入ってすぐに眠りに落ちたのだけれど。でも。こうして改めてレナールと顔を合わせると、昨日の恥ずかしさがぶり返してきて、かあっと頬が赤くなってしまう。

「アリーセ」

 なかなかアリーセが答えないからだろうか。レナールが更に顔を近づける。

「あ。はい。ゆっくり休めました」

 レナールが今日は休むかと聞いてくるがアリーセは断る。あまりレナールに負担をかけるようなことはしたくなかった。
 朝食もいつも通りに食べて、ロストがある部屋へと二人で向かう。

 もともと昨日の件がなかったとしても、鑑定は終わっていた。そのため、大分部屋は片付いている。レナールが机に向かって報告書をまとめる傍ら、アリーセはメモの片付けをする。書き付けたメモは今後の資料のために持って帰る予定だ。
 レナールは集中しているらしく、無心で紙にペンを走らせている。
 大体のメモをまとめたところで、アリーセはふとロストに視線をやった。まだ魔法回路を隠す板は外したままだ。
 浄化のロスト。これは何のために作られたのだろう。

(感染症でも発生したことがあったのかな)

 ユーグも、感染症が発生したときは協力を仰ぐことがある、と言っていた。
 二人は黙々と作業を進める。そのおかげで、アリーセも余計なことは考えずに済んだ。
 午前中のうちに報告書が終わり、フィンにそれを告げに行く。レナールはアリーセを一人にしたくないらしく、隣の部屋へも二人で行った。
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