魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
「つまり、最初からあなたは私を取り戻すために呼び出した……?」
「そうだ。君があの森の家から逃げ出したとわかったときは焦った。必死に探していたら、ピリエで聖女だと発表されているじゃないか。まあ、あのロストの鑑定を頼みたかったのも嘘ではない。ピリエと縁を結んでおくのはこれからを考えれば悪いことではないからな。だが、それとこれとは話が別だ」

 はあ、とブラッツがため息をつく。

「私としては弟に期待していたのだけれどね。弟は君を憎からず思っていたみたいだし。せっかく呼び寄せてやったのに、自ら手を離すようなことをするなんて。我が弟ながら甘い。君と弟が結婚するのが一番平和的な解決だったんだが」

(何それ……)

「私には婚約者がいます」
「そんなものはどうにでもなる」

 ブラッツはばっさりと切り捨てた。

「私を引き留めたいのは豊穣のロストを動かすためですか? ロストを動かすのは別に私じゃなくてもいいはずです。魔力があれば誰でも動かせる」
「ああ。知っている」
「だったら」
「君はこの国が滅んでもいいのか?」

(――滅ぶ?)

 物騒な言葉にアリーセの眉根が自然に寄る。
 ブラッツの顔は非常に真面目だった。嘘を言っているようには思えない。

「どういうこと、ですか」

 何故、アリーセがいないと国が滅ぶことになるのか。

「この国で魔法が忌み嫌われているのには、きちんとした理由がある」
「それは、上が利権を独占するためじゃないんですか?」

 アリーセのある意味糾弾するような言葉に、ブラッツは自嘲気味に笑った。

< 126 / 147 >

この作品をシェア

pagetop