魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています

24 明かされた真実

 どうにも胸騒ぎがする。レナールは自室でため息をついた。

 明日、ラウフェンを出る予定だ。ラウフェン国内を出てしまえば、あとはどうにでもなる。だが、それまでは気を抜けない。
 どうやら監視者たちはアリーセにこだわっているようだ。ジギワルドは慣習を壊せないからじゃないかと言ったそうだが、レナールはそれは嘘だと思っている。
 やはり、アリーセが聖女だからとしか考えられない。
 だが、その理由がわからない。聖女であるアリーセに豊穣の魔法を使わせていた、ならまだ納得できる。だが、そうでもない。ロストに魔力の属性は関係ないからだ。
 明日の出立を知るのは、ピリエ関係者の他には、ブラッツとその部下、そしてジギワルドくらいだろう。皆、好意的な人たちだ。
 だが、なんとなく落ち着かない。窓の外を見れば、夕日が沈む直前で、その藍と橙が入り交じった空の色が、不安をさらにかき立てる。
 アリーセの顔でも見れば安心できるかとレナールは立ち上がった。そのとき。

 こんこん、とせわしなく扉がノックされた。レナールは眉をひそめて扉を開ける。
 現れたのはジギワルドだった。端正な面差しに焦りを浮かべている。
 その様子に何か嫌なものを感じて、レナールは彼を中に招き入れた。

「子爵。――アリーセが危険かもしれない」

 扉を閉めるなり、ジギワルドが震える声で聞き逃せないことを言う。

「どういうことですか?」
「兄上はアリーセのことを諦めていない。自分が動くつもりだ」

 ジギワルドの目はレナールのことを見ているようで見ていない。かなり動揺している。

「落ち着いてください。ジギワルド殿下!」

 レナールが大きな声を出すと、ジギワルドがはっとしたように翡翠の目を見開いた。それから胸に手を当てて大きく深呼吸をする。

「兄上は、アリーセをラウフェンにとどめるつもりで、こちらに呼んだんだ」

 レナールはその言葉を自分でも驚くほど冷静に受け止めていた。

「ある程度想定はしていました。けれど、アリーセじゃないとだめな理由がわからない。豊穣のロストを使いたいだけなら、誰の魔力でもいいはずです」
「それは、子爵も気づいているだろう。アリーセが聖女だからだ」

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