魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
 そう言って、ジギワルドはラウフェンの事情を語り出す。
 五百年前、暴走した魔女が残したロストの研究結果を王族が横取りすることを考え、豊穣のロストの運用を始めたこと。
 この辺りでは魔法の効果が不安定――暴走しやすいこと。豊穣のロストを安定的に運用するために、聖属性の魔力が使われていたこと。
 聖属性の魔力を使うと暴走が格段に減るらしい。

「これも魔女の研究結果だ。彼女も――聖女だったから。とにかく、聖女であるアリーセがいなくなって、魔法の暴走を防ぐ手段がなくなった。さすがにロストを暴走させるわけにはいかず、豊穣のロストは使えなくなった」

 魔法の効果が不安定というのには、なんとなく腑に落ちるものがあった。
 ラウフェンで魔法を使ったのは昨日のみ。男の足元を凍らせた際、腰まで凍ってしまったのだが本来そこまでするつもりはなかった。
 あのとき、レナールは男への怒りで頭がいっぱいだったから加減ができなかったのかと思ったが――そうではなかったらしい。
 だが、ひっかかるのは。

(聖属性の魔力にそんな効果があったか……?)

 聖属性の魔力についてはわからないことも多い。少なくとも効果があったのは本当なのだろう。
 それよりも気になることがある。聖女は非常に少ない。アリーセが生まれる前からラウフェンの豊穣のロストは稼働していたはず。だが、ラウフェンがロストを暴走させたなどという話は聞かない。
 その謎もジギワルドは解消してくれる。

「聖女は、ラウフェン王家の血を引く女性の中に数十年に一度生まれる。聖属性の魔力を持つことがわかったら物心つく前に死んだことにされ、魔女として森の家に預けられる」
「つまり、アリーセは」
「私のいとこにあたる」
「!」

 つまり、聖属性の魔力さえ持っていなければ、アリーセは貴族令嬢として傅かれる生活をしていたということだ。

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