魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
 聖属性の魔力は、魔法の暴走を阻止するために使われていた。
 ロストを背にして立つブラッツが、アリーセに重ねて言った。

「ラウフェンの発展のためだ。アリーセ嬢。頼む。君の魔力がないと、豊穣のロストを使うことはもちろん、ラウフェンで魔法の偏見をなくすという私の目標はなしえない」

 ブラッツは真っ正面から説得するつもりらしい。
 アリーセは視線を揺らす。
 確かに、魔法の効果が不安定というのはゆゆしき問題だ。
 自分の力が役に立つのであれば、協力したい気持ちはある。
 けれど。

(そのためにはまた森の家に戻るの? 毎日祈りを捧げて?)

 嫌だ、と思った。もう既にあの森の家とは別れを告げている。
 アリーセの家は――ピリエのシェルヴェ公爵邸なのだ。

「――大変申し訳ありませんが、お断りさせていただきます。協力することはやぶさかではありません。でも、ラウフェンに残るのは無理です」

 アリーセはできる限り丁寧に、でもはっきりと言い切った。

「それなりの自由を許す、と言ってもか? 毎日祈りを捧げることは必要だが、森の家に閉じ込めるようなことはしない」

 ブラッツが提示しているのは、破格の条件だろう。
 あの森の家にいた頃なら、喜んでこの身を国に捧げたかもしれない。
 でも、今のアリーセはあの森以外の世界を知っている。

「それでもです。それに私はレナール様の婚約者です。彼のそばにいるつもりです」

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