魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
「ここで私がうなずいたとします。私が祈りを捧げて魔法は安定して使えるようになるかもしれません。でもその先はどうするんですか? 私が死んだあとは? 聖女が生まれるなんて保証はありません。全然解決になっていない!」
「大丈夫だ。うまくできている。君が老齢になるとまた新たな聖女が生まれる。そうやってあの家は引き継がれてきた。ベルタと君がそうだろう?」
「……でも、それは絶対じゃありません」
「絶対じゃなくても五百年続いている。それとも君は他に魔法を安定させる方法を知っているのか?」
「それは……」

 魔法が不安定になる現象自体、先ほど初めて聞いたのだ。アリーセは言葉に詰まる。

「ほら。目先の利益だと言われてもかまわない。国の安寧にためなら少しの犠牲は必要だ」

 ブラッツが断言した。
 それはつまり、アリーセに犠牲になれと言っている。

「お前たち。彼女を連れて行け」

 ブラッツの言葉に男たちがアリーセに歩くよう促す。強く引っ張られて、アリーセも引きずられるように足を動かさざるを得なかった。
 この空間は奥にも扉があるらしい。そちらへ向かっているようだ。
 このまま連れて行かれてしまうのだろうか。もう二度とレナールには会えないのだろうか。逃げられたと思ったあの森の家で一生を過ごすことになるのだろうか。
 アリーセの脳裏に浮かぶのはレナールの姿。二人でピリエに帰ろうと約束したこと。

(そうよ。レナール様のところに絶対帰る)

 たとえ今森の家に連れ去られたとしても、絶対に。
 だから、それまで気持ちを強く持とう。絶対にチャンスはあるはずだ
 ブラッツの横を通り過ぎようとしたそのとき。
 ばん、と後方で扉が開く音がした。闖入者の存在に、男たちも足を止める。
 そして。

「アリーセ!」

 アリーセが何よりも聞きたかったレナールの声に名前を呼ばれた。
< 133 / 147 >

この作品をシェア

pagetop