魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています

25 暴走

「レナール様!」

 アリーセは思わず扉の方を振り返る。部屋に入ってきたのは、レナールとジギワルドだった。二人とも急いできたのか、格好が少し乱れている。
 レナールはアリーセの両脇を捕まえている男たちを見て、顔をしかめた。

「二人とも。やはり来たか」

 ブラッツは闖入者を一瞥する。あらかじめ想定していた事態らしく、非常に落ち着いていた。

「兄上。彼女のことは諦めてください」
「お前こそ、この国の将来を考えるのならば、聖女が必要なことはわかっているだろう」

 ブラッツはジギワルドに向かって冷たい視線を投げかける。
 レナールは一瞬だけアリーセの方を見てうなずくと、ブラッツの方に向き直った。

「殿下。私の婚約者をどうするつもりですか?」
「弟から話を聞いたのではないか?」

 レナールの抑えきれない怒りがこもった問いかけにも、ブラッツは平然としている。

「だからどうした。……婚約者を、アリーセを返してもらう」
「子爵。弟から話を聞いたのならばわかるだろう。我が国では魔法が暴走しやすい。だから聖女が必要なんだ。魔法を安定して発動するためには聖女の魔力がいる。君には申し訳ないが、彼女のことは諦めてくれないか? 君なら国に戻ったら山ほどいい縁談があるだろう。もちろん、それなりの条件を呑もう。今回貴国が……」
「そんなことはどうでもいい!」

 レナールがブラッツの言葉を大声で遮った。

「どんな条件でも、彼女には変えられない。俺は、何が何でも彼女を連れて帰る!」

 レナールの強い想いにアリーセは思わず目を見開いた。

(レナール、様……)

 胸がいっぱいになる。目が潤む。レナールがそう言ってくれただけで十分な気持ちにさえなった。

「てっきり聖女を自国にとどめるための婚約だと思っていたが、それだけではなかった、ということか。残念だ。ピリエとはいい関係を結べると思ったのだが」

 心底残念そうにブラッツがゆっくりと首を振る。

「兄上。まさかそれは」
「決まっているだろう。国交を絶つ。もちろん子爵の責だ。理由などなんとでもなる。私の不興を買ったとでもすればいい。どうする。子爵。それでも婚約者を諦めないか?」
「兄上、それは横暴です!」

 ジギワルドが抗議するが、もちろんそれを受け入れるようなブラッツではない。ブラッツの視線はレナールに集中している。

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