魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
「さあ。子爵。君も輝かしい未来に汚点は付けたくないだろう?」

 そうだ。レナールは国の代表としてラウフェンに来ている。農業大国のラウフェンとの絆を深めるのが使命の一つだった。
 ここでレナールがアリーセを選んでしまったら。彼は周囲の期待を裏切ることになる。

「君の得意な魔法を使ってもかまわないが、ここで皆を巻き込んで心中するはめになる。それを望むなら止めない。王位継承者二人を巻き込んで魔法を暴走させたら……大変なことになるだろうな。五百年前の惨劇を繰り返したいか」

 明らかな挑発だ。レナールがぐっと唇を噛む。
 そもそも魔法をすぐに使わなかった時点で、レナールもジギワルドからある程度の事情は聞いていたのだろう。

(たぶん、ここで一度レナール様には引いてもらうのがいい)

 ブラッツは本気だ。そしてブラッツの立場ならば、いくらでも難癖を付けられる。
 レナールには輝ける未来が待っている。彼の迷惑にはなりたくなかった。

「レナール様。私――」

 ここに残ります。そう続けようとした言葉はレナールに遮られる。

「諦めるな。アリーセ」

 静かな、けれど力強い口調に、アリーセは小さく息を呑む。
 アリーセだって諦めたくない。レナールと一緒にピリエに帰りたい。
 でも仕方がないではないか。アリーセが残るのが一番丸く収まるのだから。
 魔法がなくてもレナールが強いことは知っている。だが、今の状況では多勢に無勢。
 魔法が使えれば、何か打破できるかもしれないけれど。

(でも、魔法は――)

 ふとアリーセは気づいた。
 ブラッツがアリーセをほしがるのは、聖属性の魔力で魔法を安定させるため。
 なぜなら、そうしないと魔法が暴走する恐れがあるから。だから魔法を使えない。

(だったら、ここを私の魔力で満たせばいいのでは?)

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