魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
「もちろんです」

 レナールをおいて一人で逃げるなんて考えられない。アリーセが力強く答えると、レナールが微笑んだ。
 ジギワルドは何か言いたげな顔をしたが、言い合う時間はないと考えたのだろう。無事で、と残して去って行った。
 レナールは真剣な顔でガタガタと揺れる重厚な扉を見つめる。

「結界をはる。俺の魔力で押さえ込めるかは未知数だが、やらないよりもいい。アリーセ。魔力を放出してもらえるか?」

 レナールがアリーセをまっすぐに見つめた。

「わかりました」

 アリーセは祈りを呟く。白い光がわずかに輝く。アリーセの魔力が満ちる。
 それを確認して、レナールが呪文を唱え、両手を前に突き出すと結界魔法を発動する。
 青く透き通った箱が、扉を、そしてロストがある部屋全体を包み込む。
 揺れが、わずかに小さくなったのがわかった。
 けれど、すぐにミシミシという音が鳴り始める。
 レナールがぐっと歯を食いしばる。力負けしそうなのだろう。

(どうしよう。このままじゃ……)

 レナールのこめかみににじむ汗を見て、アリーセは決意した。
 結界は純粋に魔力量勝負だ。だったら。
 アリーセの魔力をレナールにあげればいい。

「レナール様。失礼します」

 アリーセは、レナールの腕を掴むと、レナールに教わった魔力を移す呪文を唱え始める。
 レナールの青い目が見開かれた。それから力強くうなずく。
 結界の青い光が強くなったのがわかった。さらに、白い膜のようなものが包み込む。
 結界が補強されたのだ。揺れもまた小さくなっていく。
 アリーセは結界を補強するように、レナールに死に物狂いで魔力を注ぎ続ける。

(どうか、耐えきって!)

 ――やがて、揺れが止まった。

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