魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています

26 未来へ

 はっと目覚めると、アリーセは王宮の客室のベッドの上だった。服は見慣れぬ寝間着に替えられている。窓からはまぶしい太陽の光が差し込んでいた。だいぶ日が高いように思える。

(え? どういうこと?)

 身体を起こしたアリーセは必死に記憶の糸をたどる。
 ブラッツが魔法を暴走させて、それを止めるためにレナールが結界魔法を発動した。それを補強するためにアリーセはレナールに魔力を分け与えて……。
 揺れが止まったところまでは覚えているのだけれど、そこで記憶が途切れている。
 どうやら、魔力を使い切ってしまったらしい。この虚脱感には覚えがある。
 つまり、誰かがここまでアリーセを運んでくれて、さらには服を着替えさせてくれたということだ。服を。

(まさかレナール様じゃないわよね)

「入るぞ」

 こんこんというノックの直後にレナールの声がして、アリーセは心臓が飛び出るほど驚いた。タイミングがよすぎる。

「レ、レナール様」
「アリーセ。起きたのか」

 扉を開けたレナールは、アリーセが起きていたことに驚いたらしく青い目を見開いて立ち止まった。それからこちらに大股で近づいてくる。

「調子はどうだ? 痛いところはないか?」

 真剣な表情でレナールが迫ってくる。

「あ。はい。ちょっと力が抜けている感じがしますが大丈夫です」
「よかった。いきなり倒れたから心配した」

 レナールは胸に手を当てると大きく息を吐き出した。それから、ベッドの側に置いてあった椅子に座る。
 聞けば、もう昼近いという。

「その……私、やっぱり倒れちゃったんですか?」
「ああ。結界魔法を解いたときに。本当に肝が冷えた。魔力の使いすぎだろう。無茶はするなと言いたいところだが、だが、君のおかげで助かったことも確かだ。ありがとう。アリーセ」
「でも、どうして結界魔法を使おうと思ったんですか?」

 レナールは最初から逃げるつもりがなかったように思える。

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