魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
「これ以上、ラウフェンの民に魔法を恐れてほしくなかった。あのまま放っておいて、風魔法の暴走で犠牲者でも出たら、魔法に対する偏見は深まるばかりだろう?」

 アリーセは薄紫色の目を見開いた。
 確かに彼の言うとおりだ。驚くと同時にその気持ちがとても嬉しく感じる。

「ありがとうございます。レナール様」
「いや、結局は君に魔力を借りたわけだし。だが、君が喜んでくれるなら嬉しい」
「――ブラッツ殿下はどうなったんですか?」
「あの部屋の中で倒れていたのが見つかったよ。まだ目を覚ましていない。殿下は暴走によって魔力を使い果たしているはずだ。身体へのダメージも君とは比較にならないだろう。目が覚めるか、なんとも言えない」

 暴走に巻き込まれた黒服の男たちも、皆それなりに怪我を負っているが、幸いなことに死者は出なかったらしい。

「そうですか……」

 死者が出なかった、というのは不幸中の幸いなのだろう。

「ロストの方は……さすがというべきかなんというべきか。特に変わった様子はなかった。おそらく魔力を込めれば使えるだろう。だが……少し使い方は考えた方がいいな」
「暴走するかも知れないからですか?」
「それもあるが……ラウフェンで魔法が不安定なのは、あの大型のロストを使いすぎた影響の可能性が高いからだ。ジギワルド殿下には既に伝えてある」
「なんだか、いつの間にかレナール様、ジギワルド様と仲良くなったみたいですね」

 少し前のジギワルドに警戒心をむき出しにしていたレナールからは考えられない。

「は?」

 レナールが心底心外だとでも言いたげな顔をする。

「でも、私を助けに来てくれたときの連携、見事でしたよ」
「それは……目的が同じだったからだ」

 レナールはとても渋い顔だ。仲良くなるのは悪くないことだと思うのだけれど、男性にはいろいろあるのだろう。

「とにかく、君が無事に目覚めてくれてよかった」
「あー!」

 アリーセはそこで思い出した。

「その、私をここまで運んでくれたのはレナール様ですか?」
「当たり前だろう。君を他の人間に運ばせるなんてできない」
「え、えっと、では、服を着替えさせたのは?」

 レナールの青い目がキラリと光った気がした。

「俺だって言ったらどうするんだ。アリーセ」
< 141 / 147 >

この作品をシェア

pagetop