魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
「――え?」

 アリーセは固まった。

「婚約者なんだからいいだろう? どうせ近い将来見るんだし。それが少し早くなっただけだ」
「じょ、じょ、冗談ですよね?」

 アリーセは心の中で必死に祈りながらレナールに尋ねる。

「冗談だ。君を着替えさせたのは王宮の女官だ」

 ほっと胸をなで下ろす……が。

「俺は楽しみはあとにとっておくタイプだから」
「――へ?」

 それはどういう意味なのだろうか。だってこれはかりそめの婚約のはずで。だから実際に見せることなんて……ああわからない。

「アリーセ」

 レナールが改まって、アリーセに向き直った。

「今のうちに君に伝えておきたいことがある」

 レナールの青い瞳がアリーセにまっすぐ向けられている。

「俺は、最初からこの婚約は本物のつもりだ」
「それは……」
「俺は、君を愛している。だから、どうしても君と一緒にピリエに帰りたかった」

 レナールの告白にアリーセは小さく息を呑んだ。
 レナールの表情が不安に揺れている。見たことのある表情だと思って、それが婚約者の二択をユーグに迫られたときのそれと同じことに気づいた。
 アリーセの反応が不安なのだ。
 国一番の魔法使いで、王太子の補佐官で、次期公爵様。天が何物でも与えたような彼が。
 愛おしさがこみ上げてくる。

「私も、お慕いしています。レナール様」。

 口にした次の瞬間、アリーセはレナールに抱きしめられていた。
 ぎゅっと強い力が、アリーセへの気持ちを表しているようで思わず微笑む。
 顔を上げると、レナールと視線が合った。
 いつの間にか熱を湛えた青い瞳がアリーセをじっと見つめている。
 青い炎の方が実は熱い……昔本で読んだ知識を思い出しながら、アリーセはそっと目を閉じる。

「好きだ。アリーセ」

 唇がそっと触れたのは、かすれた声でそう囁かれた直後だった。

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