魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
 だったら、何故、アリーセたちだけが贖罪を行っていたのだろうか。
 もちろん、他の魔女もラウフェンで平穏な生活をしていたとは思わない。魔女が忌み嫌われるラウフェンでは、魔女であることは隠し通さなければならないからだ。でも。
 もしかして、他にも贖罪のための水晶玉が存在した? そんな話、聞いたことはない。ベルタにほのめかされたこともない。

「何か、気になることでも?」

 考え込むアリーセにレナールが尋ねてくる。
 一人でぐるぐる考えていても仕方がない。アリーセは思い切って打ち明けることにした。

「ラウフェンに他に魔女がいるなんて思ったことがなかったんです。私は、幼いときから魔女の贖罪をしろと言われていて――実際、売られるまでそれを一日たりとも欠かしたことはありませんでした」
「贖罪?」
「五百年前の――アミエルの惨劇で魔女は王都を滅ぼしかけた。その罪を償うための祈りです」

 アミエルの惨劇。ラウフェンの人間で知らない者はいない歴史上の出来事だ。
 当時の王都アミエルに住んでいた魔女が私利私欲のために魔法実験を繰り返し、ある日実験に失敗して魔法を暴走させてしまう。王都はあっという間に火の海になり、何万もの人間が亡くなったという。焼け野原になった王都は魔法の関係なのか十年以上草木が生えることがなかったらしい。それにより王都は移転を余儀なくされた。アミエルの地は今は広い草原になっているらしい。
 ラウフェンで魔女が忌み嫌われることになったきっかけだ。
 レナールが眉をひそめて険しい顔をする。

「祈りとは?」
「石室の中に水晶玉があって、それに向かって祈るんです。そうすると水晶玉が光りました。でも翌朝には光は消えてしまっていて。その水晶玉が光り続けるときが、罪が許されるときだと」
「その祈りを教えていただけますか?」

 レナールの要望にアリーセは、魔法の呪文に似た、でも少し違う響きの言葉を披露する。
 レナールは難しい顔をして黙り込んでしまった。

「……あまり言いたくありませんが、おそらくあなたは利用されていたのでしょう」

 しばしの沈黙の後、レナールは苦い顔で言う。

「利用?」
「推測ですが、その水晶玉は何かに魔力を供給するための古代魔法を使った装置です。あなたが祈りと言っていた言葉は、少し形を変えてありますが、魔力を放出させる呪文でしょう。翌朝には光が消えていた、というのは水量玉に込められた魔力が何かで使われたから。つまり、あなたは贖罪という名の下に魔力を搾取されていたんです」

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