魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています

5 新しい日々

 ピリエに残ると決めてから数日。

 アリーセはピリエ王国の王都オベールに向かう馬車の中で小さくため息をついた。
 堅牢な作りの箱型馬車はギャロワの元へ連れてこられたときに乗せられた荷馬車と快適さが雲泥の差だ。座席も長時間座っていてもお尻が痛くならないように工夫されている。
 それはそうだろう。だって、今、アリーセの目の前に座っている青年二人は高貴な身分なのだから。

(まさか、王太子とその補佐官だったなんて……)

 ユーグが王太子で、レナールは彼の補佐官なのだという。それを明かされたとき、アリーセは一瞬目の前が真っ白になった。
 ちなみに、レナールは公爵家の嫡男で今はサヴィール子爵を名乗っている。しかも王位継承権を持つという。
 王位を継ぐ可能性はゼロに等しいとレナールは言っていたけれど、平民であるアリーセから見れば、似たようなものだ。
 それなのに。

 アリーセは先日の支部でのやりとりを思い出す。

『じゃあ、アリーセ嬢のことはよろしくね。レナール』

 アリーセがピリエに残ると決めると、ユーグはそう言ってレナールの方を見た。

『は?』

 いきなり話を振られたレナールが目を丸くしている。アリーセもびっくりした。

『だって君が適任でしょう?』
『それはそうですが……』

 レナールは渋い顔をする。まあ当然の話だろう。なんだかアリーセは申し訳ない気持ちになる。
 しかもレナールの方を見ると、彼の深海の瞳と視線がぶつかって、露骨に視線をそらされてしまった。正直ショックだ。
 それをめざとく見つけたユーグがため息をつく。

『レナール。君が困った顔をするから、アリーセ嬢が悲しそうじゃないか。まあ、君が無理なら他を探すよ。魔法使いの女性なんて、どこでも引く手あまた……』
『いえ、私が面倒を見ます。なので他を探さなくても大丈夫です』
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