魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
 レナールの研究室の留守番。これが、アリーセの今のメインの仕事だ。

 ユーグの補佐官として多忙な日々を過ごす彼が、王宮魔法使いとして出仕するのは週に一度。レナールの出勤日は魔法研究所内で周知されているので、突発的な客はほとんどない。留守番と言いつつ、単なる勉強時間のようなものだ。

 研究室の中は散らかってこそいないものの、雑然としている。片側一面の本棚にはびっしりと魔法の本が並んでおり、その隣の棚には工具や部品が無造作に突っ込まれた箱が置いてある。奥にあるレナールの机の上にはごちゃごちゃと本や部品が散らばっていた。
 器具で埋まっていた実験用の机を片付けた一角が、アリーセの席だ。

 留守番をしつつ、来年の試験を目指し、王宮魔法使いの試験勉強をする。これがアリーセの一日。

 アリーセは、レナールに勧められた初歩的な魔法の本を広げる。
 アリーセの魔法の知識はベルタに教わった内容が全てだ。身を守るために覚えたのだが、アリーセはなんとなくで魔法が使えてしまっていた。それが変な癖になっており、アリーセの魔法は燃費が悪いらしい。魔力に対して効果が小さいのだとか。
 確かにレナールに教わった方法で魔法を使ったら、とても苦手だった制御もとても安定した気がする。
 ほとんど一からの勉強だが、新しい知識を吸収するのはとても楽しい。
 わからないところは、帰りにまとめて迎えにきたレナールに確認して教えてもらうことになっている。

 こんこん、とノックの音がしてアリーセは読んでいた本から視線を上げた。そういえば、今日は一人来客があるとレナールが言っていた。

「すまない。この前修理を頼んだ魔法道具を取りに来た者だが」

 顔を出したのは紺色の王宮魔法使いのローブを着た中年男性だった。名乗った名前は朝レナールから聞いたものと一致していた。

「あ。はい。話は聞いております」

 アリーセは棚に置かれている魔法道具を手に取った。箱に入っているそれを渡すと男は一通り確認する。この魔法道具は実際の風景を紙に焼き付けるものだという。どうやら満足できる出来だったらしい。助かった、と笑ってから男性は興味深そうな視線をアリーセに向けた。
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