魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
「あんたが噂のレナールの新しい助手か」
「はい。アリーセと申します。よろしくお願いします」

 こういった興味本位とも言える質問を投げられるのは初めてではない。いつも素直に名乗って挨拶をすることにしている。
 容姿端麗で将来有望なレナールは、この国の貴族令嬢にとって結婚したい男性ナンバーワンらしい。
 女性からの熱い視線を集める彼だけれど、身持ちは堅く、女性に対しては一線を引いていたそうだ。
 そんな彼が、いきなり女性を助手として取ったのだ。興味を引いて当然だろう。

「あの淡々とした男がねえ。こういう清楚なタイプが好みだったのか」

 男性は小さく呟くと、よろしくな、と挨拶をしてくれた。今後も魔法道具の修理でレナールには世話になる、と。
 国一番の魔法使いと言われるレナールだが、彼の専門は魔法道具なのだという。棚にある工具や部品はそのためのものだ。
 魔法回路が組み込まれ、魔力で動く道具を魔法道具という。
 魔力さえ供給しておけば、魔力がない人間にも扱える。ピリエ王国ではその魔法道具の開発に力を入れようとしているらしい。
 アリーセがはめられたあの魔封じの腕輪も魔法道具の一種だそうだ。
 レナールは魔法道具の開発よりどちらかというと修理が好きらしく、壊れた魔法道具の修理をたまに請け負っている。難易度が高いと彼に回ってくるらしい。

 じゃあな、と言って男性が出ていく。彼が絡んでくるようなタイプでなくてアリーセはほっとした。
 助手だというアリーセに値踏みするような視線を送ってくるのは、意外と中年男性に多い。だいたいは娘もしくは親族をレナールの結婚相手に、と考えている人間だ。

(私がレナール様と結婚なんてできるわけがないのに)

 アリーセはただの移民。ただたまたま助けてもらって手を差し伸べてもらっただけ。
 それだけだ。
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