魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています

6 才能の片鱗

 今日は週に一度、レナールが王宮魔法使いとして勤務する日だ。

 といっても、レナールが研究室にいる時間はわずか。国一番の魔法使いに意見を求めたいと、王宮魔法使いとしての勤務日を狙って様々な人が声をかけるのだ。
 アリーセはいつも通り一人研究室に残って留守番だ。補佐官としての出勤日は、予定している人間の来訪しかほぼないが、今日は違う。王宮魔法使いたちがここぞとばかりに押しかけてくるので、勉強する暇はあまりない。訪問者の名前と用事は全部メモに控えてある。

 お昼過ぎ。
 こんこん、と軽くノックの音がしたアリーセはまたかと腰を浮かせた。
 しかし、アリーセの訪れを待たずにガチャリと扉が開く。現れたのはレナールだった。王宮魔法使いとしての出勤日なので、一応ローブを羽織っている。

「レナール様」

 この時間、レナールは魔法道具の修理を頼まれていたはずだ。助手として彼のスケジュールは把握している。どうしたのだろう。
 アリーセが不思議に思っていると、レナールが口を開いた。

「アリーセ。すまないが、ちょっと付き合ってもらえるか? いつも頼んでいる人間が体調不良で休んでしまったんだ。どうせ、将来君に頼もうと思っている作業だから」
「はい!」

 これからへの期待を込めた言葉に、アリーセは大きく返事をする。うれしさが身体の奥からわき上がってきた。が、すぐにはっと気づく。

「その、私にも出来ることでしょうか?」
「ああ。作業の記録を取ってもらうのがメインだな。あとは少し魔法の補助を頼むかもしれない。――難しいことは頼まないから、構えなくて大丈夫だ」

 魔法の補助という言葉にアリーセが緊張したのに気づいたのだろう。レナールは励ますように言うと、壁に掛けてあった小さな肩掛け鞄を手に取る。

「じゃあ、行こうか」

 アリーセはレナールの後ろについて研究室を出た。
< 27 / 147 >

この作品をシェア

pagetop