魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
「どこに行くんですか?」
「王宮の薬草園にある温室だ」

 薬草園は、王宮で使う薬草の大半を育てている場所だ。中には貴重な薬草もあるという。
 魔法研究所の隣に併設されているので、遠目からちらりと見たことはあった。

「レナール様は魔法薬も作られるのですか?」

 薬草を元に魔法薬を作るのも王宮魔法使いの仕事だ。ただ、レナールの研究室には魔法薬が作れそうな器具は置いていない。

「違う。薬草を採りにいくわけじゃない。メンテナンスをしに行くんだ。あそこの温室はただの温室じゃない。ロストだからな」
「ロストって、古代魔法で作られた魔法道具のことですよね?」

 古代魔法。千年以上も前に滅んだと言われるそれは、今、現行でアリーセたちが使っている魔法とは全くの別物だ。今の魔法よりも強力だったらしい古代魔法が滅んだ理由は謎のままだ。人間には手に余る力で暴走したがゆえに封印された、とも言われている。
 その古代魔法を使って作られた魔法道具を、ロストと呼ぶ。

「正解。一種のアーティファクトだ。今の技術じゃ考えられないくらい大がかりな装置もある。今でも現役で使えるものも多いんだ。ただ、定期的なメンテナンスが必要だから、それをこれからしにいくんだ」
「あの温室、ロストだったんですか」

 ガラス製の温室が少しずつ普及していると聞く。てっきり薬草園のそれも同じだと思っていたのだけれど。

「ああ。一見普通の温室だけれど特別製だ。ほら。話しているうちについたぞ」

 レナールの言うとおり、前方に温室が見えてくる。
 透明度の高いガラスの向こうに見える内部は緑豊かだ。

「とりあえず、中に入ろうか」
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