魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
 レナールは白い手袋をはめると、その手でロストに触れた。切れ目が入ったところが外せるようになっているらしい。石の板を外すと、一面に魔法回路が現れる。
 魔法回路とは魔力を込めた特殊なインクで描かれた模様のことだ。複雑につながった線に見えるが、その形には一つ一つ意味がある。
 魔法回路は魔力によって白く光っていた。

「すごく緻密できれいですね」
「この緻密さはロストならではだな。普通の魔法道具はここまでじゃない」

 確かに以前見せてもらった魔法回路は、ここまで細かくなかった。それに。

「この回路、少し曇っていませんか?」

 魔法回路に流れる光が、以前見せてもらった魔法回路のそれと比べて、少しぼんやりと見えた。

「よく気づいたな。これはロスト特有の問題というわけじゃない。どうしても魔法回路は長期間使うと魔力のゴミ――障気がたまっていくんだ。使用する際にはどうしても発生するし、かといって使わないでいても魔法回路自身から発生する。そうするとだんだん黒ずんでくるんだ。だから、少し光が失われているように見えたんだろう。ロストに限らず、魔法道具のメンテナンスは魔力の補充と瘴気対策の二つがメインだ」

「瘴気対策って、どんなことをするんですか?」
「瘴気の発生を抑える魔法をかける。それでもゼロにはならないし、一度生まれた瘴気は基本的に消すことができない。瘴気を発生させたままにすると、魔法回路が瘴気で真っ黒になって最終的には使えなくなる。まあ、今俺がやっていることも、延命措置にしかならないんだが。それでもやるとやらないとでは、全然違う」

 俗に、使われている魔法回路が細かければ細かいほど、大きければ大きいほど瘴気の発生は大きくなると言う。現行の魔法道具などは小型なので、最初に対策さえすれば、あとは気にしなくて大丈夫なものが多いのだが、ロストとはいくら気にしても気にしたりないらしい。

「じゃあ、始めるか」

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