魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
 レナールは黒い鞄から、小さなペンのようなものを取りだした。瘴気の発生具合を調べる魔法道具だという。先で回路に触れると、瘴気の発生具合をメモリで教えてくれる。
 レナールは、様々な箇所で瘴気の計測を行っていく。
 アリーセは聞き落とさないように気をつけながら、レナールが読み上げる数値を記録した。
 だいたい数値が百を超えると使用不可能になるという瘴気の数値は、すべて八十台前半だった。一番少ないのでも八十。これがどのくらい気をつけなければいけない数値なのかはわからない。

 それからレナールは、計測地点に魔法をかけていく。おそらくそれが瘴気対策の魔法なのだろう。レナールの表情は真剣そのものだ。
 作業が終わると、レナールは深々と息を吐き出した。その顔は少し辛そうにも見える。魔法をかけていた箇所が多いから、魔力をかなり使ってしまったのかもしれない。

「その、魔力供給が必要ならば、私がしますか?」

 レナールを少しでも助けたくて、思わずアリーセはそう申し出ていた。

「いいのか?」

 蒼い瞳をこちらに向けるレナールは、顔色が悪い。

「もちろんです」
「なら、その言葉に甘えさせてもらおう。魔力供給口があるロストもあるが、このロストにはないから魔力供給の呪文を教える。大丈夫、そんなに難しい呪文じゃない」

 レナールはアリーセの帳面にさらさらと魔法の呪文を書く。供給先に触れて呪文を唱えればいいらしい。
 素手で魔法回路に触るわけにはいかないので、レナールから予備の手袋を借りる。当然ながらぶかぶかで、手の大きさの違いを意識してしまいなんだか恥ずかしくなった。

「アリーセ?」

 じっと指先が余る手袋をはめた手を見つめていたからだろうか。レナールが首をかしげる。

「そ、その、ぶっつけ本番で大丈夫でしょうか?」
「心配なら俺相手に唱えてみるか?」

 半ばごまかすために口にした言葉だが、レナールからの提案はありがたかったのでそれに乗ることにした。

「人間相手に魔力供給出来るんですか?」

 レナールの不調が魔力の使いすぎから来ているのであれば、魔力を供給したら少し楽になるかもしれない。

「ああ。魔力を持つ相手にならできる。手を俺の手に重ねてもらえるか?」

 レナールが手の平を上にした。アリーセは言われた通りに手を重ねる。
 手袋の時点でわかっていたが、大きさが全然違う。なんだか落ち着かない気持ちになった。当たり前だけれどレナールは平然としている。
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