魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
「対象に触れている間は魔力を供給する」

 手袋は特別な繊維で作られているので、魔法的には素手で触っているのと同じ扱いになるのだという。
 説明を聞いたアリーセは、教わったとおりに呪文を唱えた。
 魔力が吸い取られる感じ。これは祈りのときと似ている。

「……っ」

 レナールが息を呑んだ。アリーセは驚いて手を離す。

「私、もしかして何か失敗しましたか?」
「違う。そうじゃない。成功だ。俺に君の魔力が流れてきた。ただ――」

 レナールは口元を押さえると言葉を濁してしまう。

「アリーセ、一度、回路に魔力供給をしてもらえないか?」

 今までにない真剣な口調で言われてアリーセはうなずいた。もとよりそのつもりだ。
 魔力量を示すメモリを教えてもらい、そこが半分を超えたらやめてかまわないと言われる。その前でも身体が辛く感じたらすぐやめていい、とも。
 アリーセは魔法回路に触った。メモリに視線を向けて、それから先ほどと同じように呪文を唱える。
 じわじわと魔力が吸い取られていく感じがする。はっきりと魔法回路の光が強くなったとわかった。メモリも半分を超えたのでアリーセは手を離す。

「……」

 レナールは半ば呆然と魔法回路を見つめている。口が小さくあいていた。

「もしかして、私、何か変なことをしましたか?」
「いや、違う。魔力供給は成功している」

 アリーセが不安げな顔を見せると、レナールが慌てて否定する。それから、おもむろにさきほどの瘴気の計測装置を取り出した。それを魔法回路に押し当てる。

「減ってる……」

 呆然と呟いた。

「何が減ってるんですか?」
「瘴気の数値だ。先ほどの計測だとすべて八十を超えていただろう。それが、今測ったらこうだ」

 レナールが見せてくれた計測装置の数値は、七十八だった。先ほどアリーセが記録したどの数値よりも低い。確かに下がっている。でも。

「瘴気は基本的に消せなかったのでは?」
「基本的に、だ。例外はある。――聖属性の魔力だ」

 レナールは、アリーセの手をぎゅっと握った。それから、深海の瞳をまっすぐにアリーセに向ける。

「君はもしかしたら、貴重な聖属性の魔力の持ち主――聖女なのかもしれない」

< 32 / 147 >

この作品をシェア

pagetop