魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています

7 依頼

「まさか、アリーセ嬢が聖女だったとはね」

 王太子の執務室。机に向かったユーグは、レナールからの報告書に目を通すとほうっとため息をついた。レナールは心の底から相づちを打つ。

「俺も驚いた。――だが、おそらく間違いない」

 自分で作った報告書だが、まだどこか狐につままれたような気持ちだ。
 二週間前。温室のメンテナンスへ行った際、アリーセに魔力供給をしてもらった。もしかして、と思ったのはそのときだ。
 彼女の魔力がしみこんでくると同時に、明らかに気分がすっきりしていくのがわかった。しかも、身体へのなじみがいい。優しく包み込むような、とでも言えばいいのだろうか。魔力の使いすぎで疲れていた身体が、彼女の魔力に癒やされていく。

 ――不思議な感覚だった。

 何度か他人から魔力供給を受けたことがあるが、こんな感覚を覚えたことはない。
 そして、そのあとアリーセが行った魔力供給。アリーセの魔力によって瘴気の数値がわずかではあるが減ったのだ。

 あの温室は、レナールが前任者からメンテナンスを引き継いだ時点で、瘴気の値は軒並み八十を超えていた。この温室は魔法薬学の発展に欠かせないものだ。失うわけにはいかない。三年間、レナールはその数値を増やさないように細心の注意を払ってきた。
 瘴気を消す方法はただ一つ。――聖属性の魔力に触れさせること。特に浄化魔法は大きな効果を持つ。

 しかし、ここ百年ほど、ピリエ王国に聖属性の魔力を持つ者――いわゆる聖人、聖女と呼ばれる者は出ていない。
 魔力を持つ者が全ての魔法を使えるわけではなく、魔力の大きさや性質で使える魔法は限られてくる。
 とはいえ、属性という観点から言えば、無属性の魔法は皆使えるし、風火水土の四元素の魔法も魔力との相性によって得意不得意があったりするが、それは努力で克服できるものだ。
 だが、聖属性の魔法は違う。
 生まれながらに聖属性の魔力を持っていないと使うことができない。そして、その属性を持つ人間はほんのわずかだ。何故か圧倒的に女性が多い。今現在、この大陸で聖属性を扱えるのは、ピリエから遠く離れた北の国に一人聖女がいるだけ。
 アリーセの協力を得て、レナールは様々な分析を行った。アリーセが聖女であることは、ほぼ間違いない。

(アリーセの魔力を搾取していた監視者は、それを知っていたのだろうか……)

 脳裏をよぎるのはアリーセのラウフェンでの生活。だが、もう既に彼女はピリエの人間だ、とレナールはその思考を追い払う。
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