魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
「やあ。アリーセ嬢。久しぶりだね」
「ユーグ殿下!」

 ひょっこり顔を覗かせたユーグに、アリーセは薄紫色の目を丸くした。軽く会釈をする。
 レナールは眉間にしわを寄せたまま、奥にある自分の机へと向かった。

(どうしたんだろう……)

 アリーセが視線でレナールを追っていると、ユーグがにこにことアリーセに話しかけてきた。

「聞いたよ。聖属性の魔力を持っていたんだって?」
「そうみたいです。あまり自覚はないんですが」
「そうか。でも浄化魔法を頑張っているっていう話じゃないか」
「はい。まだまだですが。ユーグ殿下はどうしてここに?」

 以前顔をだしたときは魔法研究所に用があったついでだった。今回もだろうか。

「君に頼みたいことがあるんだ」
「私に、ですか?」
「正確にいうと、君とレナールに、かな」

 ユーグは顔をしかめているレナールにアイコンタクトを取る。レナールは渋々と言った風情でうなずいた。

「なんでしょうか?」
「その前に座っていいかな。アリーセ、君もどうぞ」

 レナールの研究室には人をもてなすような場所はない。ただ、実験用の机の横には二つ丸椅子が置いてあって、来客はそこに座ってもらうことが多い。ユーグは慣れたようにその一つに座る。そしてアリーセは勧められるがまま、もう一つの丸椅子に座った。

「レナールの出張に同行してほしいんだ。カルタンより更に西にデュラックっていう町があるんだけれど、レナールはそこにあるロストのメンテナンスに行くことになった。そこに君もついて行ってほしい」
「それは、浄化魔法が必要になるかも知れないから、ですか?」
「察しがいいね。その通りだよ。どうかな」

(レナール様の役に立てるかもしれない……)

 アリーセの頭の中に真っ先に去来したのはそれだった。

「嫌なら嫌だと断ってかまわないぞ」

 今まで黙っていたレナールが口を挟む。けれど、アリーセはぶんぶんと首を振った。

「とんでもないです。行きます。行かせてください!」

 断るなんていう選択肢は最初からない。
 食い気味なアリーセに、ユーグはにっこりと笑った。

「ありがとう。アリーセ嬢。君ならそう言ってくれると思った。では、そのように手配しておくよ。じゃあ、レナール。あとのことは頼んだよ」
「ああ」
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