魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
「アリーセ嬢は、もしかしてピリエの方ではないんですか?」

 マルクに声をかけられて、アリーセは彼の方を向く。どうやら話は終わったらしい。

「え?」
「いえ、その金色の髪はあまりピリエでは見かけない色なもので」

 確かにピリエではアリーセのような金髪はあまり見かけない。ちなみにレナールの黒髪も同じくらい珍しい。濃さは違えど茶色の髪が多いようだ。

「ああ。私はラウフェンの出身です」
「そうなんですか。そういえば、ラウフェンには金髪の方が多いっていいますね。太陽の光みたいできれいな髪ですね。ピリエは長いんですか?」
「いえ。まだ半年も経っていないです」
「意外と短いんですね。ピリエ語がお上手なので、もっと長いのかと思いました」

 お世辞かも知れないが、ピリエ語がうまいと言われるのは嬉しかった。

「ありがとうございます。ラウフェン語と文法が似ていて助かりました」

 はにかみながらアリーセはお礼を言う。マルクが小さく息を呑んだ。

「フェヴァン卿」

 レナールが落ち着いた口調で割り込んでくる。気のせいか少し声が低い。

「あとどれくらいで到着しますか?」
「ああ。すみません。あと十五分くらいじゃないでしょうか」

 マルクはレナールにそう答えると、またアリーセの方を見た。

「アリーセ嬢は……」
「フェヴァン卿。ロストの記録が残っているという話でしたが、どんな話か詳しく聞かせてもらえませんか?」

 またレナールが、マルクに話を振る。マルクが何気なくレナールの方に視線を向け、そしてしばし固まった。

「フェヴァン卿?」
「は、はい。もちろんです」

 マルクがぴんと背筋を伸ばして答える。
 どうしたんだろう。アリーセは隣のレナールの表情を伺う。特にいつもと変わらない真面目な表情をしていた。レナールの顔は整いすぎて迫力があるように見えるときがあるから、それなのかもしれない。

「それで私があたった記録ですが……」

 気を取り直したマルクから、デュラックに伝わるロストの使用記録について教わる。
 ロストを使ったのは当時の王宮魔法使いであること。発動した翌日に雨が降ったこと。
 レナールはマルクの話に対して質問をする。
 結局、ロストがある場所に着くまで、マルクはレナールの質問責めにあっていた。
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