魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています

9 奇跡は起きるか

(レナール様が近い)

 まるで後ろからすっぽりと抱き込まれているような姿勢に、異性の免疫がないアリーセはどうしても緊張してしまう。
 これはあくまで魔法のため。アリーセは自分にそう言い聞かせる。

「アリーセ」

 上から降ってくる名前を呼ぶ声に、心臓がどきんと跳ねる。

「準備が出来たらこうやって手を握るから、浄化魔法を唱えてほしい」

 実際にレナールが右手に軽く力を入れた。

「アリーセ? 聞いているか?」
「あ。はい。もちろんです。大丈夫です。呪文を唱えてください」

 必要以上に大きな声になってしまった。が、レナールは気にした様子もなく、呪文を唱え始める。そして、右手に力が込められたのがわかった。

 アリーセは魔法回路を見つめると、呪文を唱え出す。
 全身を魔力が巡っているのが、いつも以上に感じられる。おそらくレナールが手伝ってくれているからなのだろう。
 いつも若干感じるせき止められたような感覚はなく、素直に魔力が駆け巡っている。その流れを素直に感じながら、アリーセは呪文を続ける。
 呪文を唱え終わった瞬間、目の前の魔法回路を強烈な白い光が包み込んだ。
 目を開けていられないほどのまぶしい光で、アリーセは思わず目をつむる。
 ずいぶん長い間光り続けていたと思ったけれど、おそらく実際は十秒くらいだったのだろう。光が消えたのが目をつむっていてもわかった。

(こんな強い光が生まれたことなんてない)

 魔力の流れに介入してもらうだけで、こうも効果が違うとは思わなかった。

「……すごいな。アリーセ」

 レナールの言葉にアリーセもゆっくりと目を開けた。

「――うそ」

 目の前の魔法回路の見違えるような姿に、アリーセは呆然と呟く。
 アリーセが浄化した箇所以外真っ黒だった魔法回路から、黒ずみが消えている。それだけじゃない。先ほどアリーセが浄化した場所すらも、さらに曇りがとれているようだ。

「俺が少し手伝っただけで、この結果だ。君の魔力はすさまじいな」

 ぽん、とレナールの大きな手がアリーセの頭を撫でる。
 声音が柔らかくて、おそらくレナールは微笑んでいるのだろう、とアリーセは思った。

「これが、私の力」

 ここまで目に見えてわかる効果が出るとは思わなかった。

「そうだ。君の力だ」

 レナールが力強く言った。
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