魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
 レナールは魔法回路の全貌を眺めるために、少し離れたところに立つ。見つめるレナールの横顔はとても真剣なものだ。
 ロストは、魔法回路に魔力がスムーズに流れるようにしてあげれば、ほとんど発動するらしい。ただ、効果がよくわからないものが多いので、迂闊な起動は厳禁だ。
 このロストの場合、雨を降らせる、と効果ははっきりしている。わからない場合は、魔法回路からなんとなくの効果を読み取る必要があるらしい。
 全体を眺め、光にムラがあるところ――つまり魔力の流れが滞っているところを見つけて、回路を補強していく。魔力の流れがスムーズに行かないと、余計なところに負荷がかかり、最悪、魔法回路が使えなくなってしまうという。
 魔法回路の修正自体は、ロストも現行の魔法道具もやり方は同じ。魔力を足すのだ。
 レナールは黙々と作業を進める。地道な作業だ。けれど、確実に魔力のムラが解消されていく様子は見ていて面白かった。

「たぶん、この辺りが雨を呼ぶ魔法なんだと思う。ただ、見たことがない回路があるな」

 レナールは魔法回路の鑑定もできる。ただ、過去発見されたロストからの積み重ねで得られた情報を元にしているので、未知なる効果と出会うときもある。魔法によって大体の傾向はあるものの、作り手の個性により魔法回路は一つ一つ違う。

(私も、いつかやってみたい)

 あっという間に時間は経つ。気づけば、空が徐々に赤くなってきていた。
 そして、マルクが戻ってくる。

「子爵。ロストはいかがでしょうか」

 全体の様子を確認していたレナールが、声がした方を振り返る。

「とりあえず魔力の流れがまずそうな場所は直しました。ただ、このままだと瘴気がすぐにたまってしまうので、明日、瘴気の発生を抑える魔法を施します。起動は明後日ですかね」
「こんなものが隠されていたんですね……。私には意味が全くわかりませんが、きれいですね」

 マルクがほうっと感心したように息を吐き出す。

「魔力を供給したので、今は光っています。そうだ。この辺りに魔力がある方はいらっしゃいますか? 魔法が使えなくてもいいので。ロストへの魔力供給をお願いしたいのです。足りなかったら私たちも手を貸しますが、今後のことを考えると住民の方の力のみで使えた方がいいでしょう」

「わかりました。私も魔法は使えませんが魔力はありますし、何人か心当たりはあります。声をかけておきましょう」

 ――本日の作業は、ここで終了ということになった。

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