魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
「――なんだか薄暗くなってきた気がしないか」
「た、確かに」

 レナールから発せられた言葉に拍子抜けしたアリーセは、一体何を期待していたのだと自分を罵りたい気分になった。
 レナールの言うとおり、小屋の中に入ってくる光が少なくなった気がする。

「外に出てみます」

 アリーセは小屋の外に出た。

「アリーセさん」

 気づいたマルクが声をかけてくる。その声はどこか興奮していた。

「雨雲のような雲が広がっています」

 マルクの声で反射的に空を見上げる。先ほどまで真っ青な快晴だった空に重たい色の雲が立ちこめていた。湿った空気も感じられる。
 皆が期待を込めたまなざしで空を眺めている。
 ぽつり、と一粒の滴が、地面に落ちた。

「!」

 地面に小さなシミが出来る。
 ぽつり。ぽつり。ぽつり。
 アリーセの頭の上にも冷たい滴が落ちてきた。

「……雨だ」

 誰かが呆然としたように呟く。
 ぽつぽつと落ちてきた滴。落ちてくる感覚がだんだん狭まってくる。
 待ち望んでいた雨に、魔力提供者たちも皆手を取り合って喜んでいた。

「アリーセさん。雨です! すごいです!」

 上を向いて降ってくる雨粒を受けていたマルクがアリーセの方を向いた。彼も喜びを近くの人間と分かち合いたかったのだろう。マルクがアリーセの手を握ろうとして――アリーセは後ろから抱き寄せられる。
 その結果、マルクの手はほんの少し触れただけ。
< 49 / 147 >

この作品をシェア

pagetop