魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
 それから二人は小説の感想を語り合う。他にも最近王都で流行っていることや、最近ジギワルドの身近で起きたことなど、話のネタは尽きない。

 けれど、あっという間に楽しい時間は過ぎてしまう。
 窓にオレンジ色の西日が差しこむ。
 焼き菓子がのった皿は、既に空になっていた。

「そろそろ時間だね」

 ジギワルドが名残惜しげに言う。

「そうですね」
「そんなさみしそうな顔をしなくてもまた来るよ」
「はい。楽しみに待ってます」

 もともと彼自身の荷物はそんなに多くない。帰りの支度はあっという間に終わってしまう。
 ジギワルドが帰るときはいつもアリーセは玄関の外まで見送ることにしている。
 彼はいつも馬でやってくる。おそらく来るときは別に荷馬車も一緒で、荷馬車だけ先に帰しているのだ。

「じゃあね。アリーセ、また」
「はい」

 彼は外に繋いでいた愛馬に乗ると、さっと駆けていく。
 アリーセは彼の後ろ姿が見えなくなるまで見送ると、家の中に入った。
 ジギワルドと一緒にいるときはとても楽しいけれど、でも彼が帰った後はぽっかりと穴が空いたような気分になる。
 本当はもっと頻繁に来てほしい。食糧を運んでくるのは毎回彼にしてほしいくらいだ。
 だが、王都で仕事をしているという彼には彼の都合がある。わがままは言えない。

(次はまた一月後ね)

 明日からはまた単調な毎日が続く。けれど。
 ジギワルドが来てくれることを考えれば頑張れる。

 そのときのアリーセは、来月もまたジギワルドと読んだ本の感想を言い合えると信じて疑わなかった。
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