魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています

　デュラックを訪ねてから約一月が経過した。

（まさか、ここまで効果があるとは……）

　王太子の執務室。自席に座ったレナールは、報告書に目を通しながらこめかみを揉む。
　記載してあるのはデュラックの状況だ。あの三日三晩の雨が引き金になったのか、降水量が平年並みに戻りつつあるらしい。

　あのあと、マルクにはロストについての扱いを教えた。
　天候を操る魔法のように大きな魔法を使ったあとは、周囲にどのような影響が起きるかわからないので、間隔をあけて使用すること。これについては、雨が降り出したので心配はないだろう。
　大量に魔力を使うロストなので、その分瘴気の発生も多くなる。数年に一回はメンテナンスに王宮魔法使いを呼ぶこと。
　マルクは魔力こそ持っているが、魔法にはあまり詳しくなかったようで、魔法回路の復活については何もぴんときていないようだった。あのときの魔力供給の領民もしかり。

（――だが）

　ロストが引き起こしたのは、ただの雨ではなかった。
　本当の意味で「恵みの雨」だのだ。
　デュラックの作物は枯れかけていた。雨が降ったところで、例年通りの収穫は難しいのでは？　そう思われていたのに。

（作物が復活した、か）

　枯れていた花がみずみずしさを取り戻し、麦が今までの遅れを取り戻すようにすくすくと育ち始めた。あの雨に豊穣の魔法のような効果があったのだろう。
　豊穣の魔法は通常、聖属性の魔力でしか起こすことができない。だが、ロストでは可能であるという話は知っていた。が、目の当たりにしたのは今回が初めてだ。
　雨を降らせる、と効果がはっきりしていたので、起動方法の確認以外、詳細までは確認していなかったのだ。

（もっときちんと回路の形に留意しておくべきだったな）

　今度機会があったら魔法回路を詳しく見せてもらいたい。
　今回の件は、ロストが起こした奇跡だ、と瞬く間にピリエ国内外に噂が広まっている。
　ロストと思われる装置は各地に眠っている。デュラックのような奇跡を夢見て、魔法研究所の方にはロストらしきものを確認してほしいという依頼が殺到していた。中にはロストが石で出来ている、ということから、単なる岩をロストかどうか確認してほしいというものもあるそうだ。
　仮にロストが本物だったとしても、ほとんどのロストが使える状態ではないだろう。
　人員を割けないということで、今は一律で断ることにしているそうだ。
　魔法研究所の職員は、その対応に追われているようだが、それはいい。
　問題は――。