魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
 レナールは机の上に山になった手紙を見つめてため息をつく。

「今日も殺到しているね。アリーセ嬢への手紙」

 のんびりとした口調でレナールの机の上を覗き込んだのはユーグだった。
 レナールは眉間にしわを寄せたまま、ユーグの顔を見上げる。

 そう。デュラックのロストが「復活」したことで、アリーセが聖女だということがばれてしまった。
 二十年前にロストのメンテナンスに訪れた魔法使いはまだ魔法研究所に残っていて、レナールが直接口止めをすることができた。口の堅い男だからそこは信頼している。けれど。
 誤算だったのは、魔力供給者の中に以前の黒ずんだ魔法回路の状態を見たことがある人間がいたことだ。それが見違えるように美しくなっていたことを、知り合いの魔法使いに話をした。

 少し知識がある魔法使いの中では、魔法回路の復活は聖属性の魔法以外不可能であることくらい常識だ。驚いたその魔法使いはフェヴァン子爵家に問い合わせをして、王宮から派遣された魔法使いの名を知った。
 そこからはレナールの予想通りだ。
 消去法でアリーセが聖女だという噂が流れ始めている。
 急にレナールが助手に取ったのは聖女だったからでは? なんてことも囁かれているくらいだ。自分も知らなかったのだ、と声を大にして言いたい。

 アリーセの後見人であるレナールの元にこうして毎日大量の手紙が届く。
 ほとんどが豊穣の魔法を使ってほしいという依頼と――縁談だ。中にはアリーセのことをピリエの聖女として大々的に祭り上げようとするものもあった。

(誰も彼もアリーセの力を利用することしか考えていない)

 本当に腹が立つ。だが、それと同時にそもそも最初に利用したのは自分では? という思いも消えない。
 アリーセに選択させる態を取ったが、そもそも彼女にあそこで断る選択肢があったかと振り返るとないようにも感じるのだ。
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