魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
「機嫌悪そうだね。アリーセ嬢のこと? でも、噂が流れ始めた時点でこうなることはわかっていたんじゃない?」
「そうだな。だが、こんなにも早く反響があるとは思わなかった」
「聖女は逸話も多いからね。無理もないよ。奇跡の聖女再来なんて騒いでいる者もいるし。念のためアリーセ嬢には気づかれないように護衛を付けているのは君も知っているでしょう? 魔法研究所内は性質上、セキュリティもきちんとしているし。王宮魔法使いで君を敵に回そうという度胸がある人間はいるとは思えない」
「ああ。それはわかっている。だが」

 頭では冷静にそれを理解しているのに、割り切れない感情をレナールは覚えていた。
 本当はレナールが四六時中側にいてアリーセの周囲に脅威がないか目を光らせていたい。もちろん、それは難しいとわかっているし、アリーセも迷惑だろう。それでも。
 焦燥感めいたものをレナールは無理矢理押し込める。
 いついかなるときでも、彼女を守るのは自分でありたいのに。そこまで考えて、レナールははっとした。
 どうも、彼女のことになると感情の制御がききづらい。それを自覚している。
 なんだかユーグがレナールのことを微笑ましそうに見つめている。なんだか最近ユーグに生温かい目で見られることが多くなった気がするが、気のせいだろうか。

「なんだその目は」
「いや、別に。で、アリーセ嬢のことだけれど、正式に聖女であることを発表することを考えた方がいいと思うよ。憶測だからこそ君に問い合わせが殺到している。正式に発表してしまえば、こちらで対応人員を手配することができる」

 ユーグの言うことはもっともだった。レナールも気は進まないがその道しかないと思っている。
 特に気にかかるのは、彼女の故郷ラウフェンがどう動くか、だ。最近、少しひっかかる噂も聞こえてくる。

「ああ。アリーセに意思を確認する必要はあるが、俺もその方がいいと思う」

 最優先すべきは彼女の安全。彼女がより多くの人の目に触れる可能性を思うと胸がモヤモヤするが、そこに私情は挟むべきではない。
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