魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています

11 婚約(形だけ)

 机の上には濁った泥水が入ったボウル。椅子に座ったアリーセは、ボウルに向かって浄化魔法を放つ。白い光がボウルを包み込み――消えた。

「成功、かな」

 一応、目の前のボウルに入った水は透明になっている。ふう、とアリーセは息を吐き出した。
 一月前のデュラックのロストの浄化。そのときにレナールに魔法の流れを見てもらったおかげか、浄化魔法の効果も上がってきた。より少ない魔力で浄化を行えるようになっている。感覚を忘れないように、毎日練習をすることにしていた。

(もっとレナール様のお役に立てるようになりたい)

 デュラックでの経験は、アリーセにとってとても刺激的だった。
 一面に広がる魔法回路の美しさに魅せられた。
 あの美しい魔法回路を自分で読み解きたいとも思った。

 だが、魔法回路を読み解くには魔法の知識が必要になる。アリーセはその土台が弱い状態だ。それがわかっているので、アリーセの勉強には以前より熱が入っている。

 今日は来客の予定もない。ボウルを片付けて座学を始めようと思ったとき、見覚えのある騎士がやってきた。確か彼はユーグの護衛騎士の一人だったはず。
 彼は表情を崩さずアリーセに告げた。

「殿下とレナール様から、あなたにお話があるそうです。ついてきていただけますか?」
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