魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
 つまり、自由にさせてくれる、ということだ。
 アリーセは目を見張った。ユーグの言葉はアリーセには利しかないように思う。

「いいんですか? 豊穣魔法があれば、国が豊かになるとか」

 おそらく嘆願書を送ってきた者たちも、この前のデュラックのように切羽詰まった状況ではないはずだ。豊穣の魔法によって利益がほしいのだろう。

「でもそれは一時のことでしょう? 君が現役のときはいいかもしれない。でも君がいなくなったら? 豊穣の魔法に慣れきった者たちがそれに耐えられるとは思わない。だったら最初から使わない方がいいんだよ。これは僕だけじゃなくて陛下も同じ意見だ」

 ユーグはさらりと言い切った。
 確かに言われてみればその通りで、自分の短絡的な考えを少し恥じた。
 レナールが補足をしてくれる。

「今、唯一聖女がいる北の国も同じ方針だ。豊穣魔法は国が管理している。まあ、北の国聖女は農業が好きで、豊穣魔法を農作物の実験に使っているようだが。それに、ユーグはああ言ったが、王家は聖女を保護している、と公表するだけで得られるものはある。――それで、アリーセ、君はどう思う?」
「わかりました。公表をお願いします」

 アリーセの方には今まで通り制約はないようだし。保護する側が、そちらの方がやりやすいのであれば従うつもりだった。

「ありがとう。王家と魔法研究所連名で文書を出すよ。それで相談なんだけど」

 ユーグがいたずらっぽく笑う。なんだか嫌な予感がした。

「相談、ですか」
「婚約するなら、僕とレナール、どちらがよい?」

 まるで夕食は肉と魚どっちがよい? くらいの気軽な口調だった。
< 56 / 147 >

この作品をシェア

pagetop