魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
 三日後、アリーセが聖女であること、そしてアリーセがレナールと婚約することが書面で発表された。

 聖女についてはずいぶん前から噂が流れていたこともあり、反応は思ったより静かなものだった。後ろ盾として王家、そしてシェルヴェ公爵家がいることも大きいのだろう。特に殺到していたという豊穣魔法の依頼については、王家が公表と同時に豊穣魔法の個人的依頼を禁止してくれたため、ぴたりとなくなったらしい。

 公表してよかったこともある。聖属性の魔法に関する情報が集まりやすくなったことだ。聖属性の魔法を体系化した貴重な書物を貸してもらえて、勉強がはかどっている。
 浄化魔法や豊穣魔法の再現研究のために協力してほしい、という要請もいくつかあった。レナールの方で吟味して、可能なものは受ける予定でいる。

 一方の婚約についてだが、予想通り、ピリエ一の優良物件であるレナールの婚約に婚活中の貴族令嬢の中で悲鳴が上がったという。けれど、アリーセが聖女であることより「仕方ない」というムードになっているそうだ。

 といっても、アリーセとレナールとの間で何かが劇的に変わったかと言われるとそうでもない。
 相変わらず優しいし、少し過保護。研究室への送り迎えも前と一緒。
 ほんの少しだけよく笑うようになった気はするけれど、気のせいかもしれない。
 たまに少し距離が近いかなと思うときはあるけれど、それだけだ。
 社交の場も今のところはない。レナール自身があまり好きではないからだろう。
 公爵家の使用人たちは、婚約を歓迎してくれた。その進展した様子のない二人をなかなかもどかしく思っているみたいだけれど、レナールがへたれだと解釈しているようだ。たまにアリーセから押すよう頼まれて、苦笑するしかない。

 手放しに喜んでいる使用人たちには申し訳ない気はするけれど、レナールのことだから結婚したい女性は行列を作っている。すぐに本当の相手はみつかるはずだ。

 ということで、以前とあまり変わらない日々をアリーセは過ごしていた。
 平穏な日々が過ぎて――しばらく経ったある日。
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