魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
「面倒なことになった」
レナールの王宮魔法使いとしての出勤日。昼過ぎから出かけていたレナールは、しかめっ面で研究室に戻ってきた。
(どうしたんだろう?)
定例の会議にしてはいつもより時間がかかったように思える。
本を読む手を止めて声をかけるかどうか迷っていると、レナールの方からアリーセの名前を呼んできた。
「アリーセ。ちょっといいか?」
レナールは自分の席ではなく、実験用の机の前に座っていた。アリーセが近くに来ると、椅子に座れと促してくる。最初から、お互い座って話せるように場所を選んでいたのだろう。
「何でしょうか?」
わざわざアリーセを呼ぶと言うことは聖女に関わることだろうか。しかし、アリーセが腰をかけるのを待ってレナールが口にした言葉は違っていた。
「再来週、ラウフェンへ行くことになった」
「――え?」
急に出てきた祖国の名前にアリーセは驚く。
「俺にロストの鑑定をしてほしいそうだ。ラウフェンの王太子から正式に依頼があった」
レナールは苦い顔で続ける。
(どうしてラウフェンがロストの鑑定なんて頼むの?)
ラウフェンは魔法を忌み嫌っている。ロストだって魔法道具の一種だ。なのに。
「ユーグが個人的にラウフェンの王太子と知り合いらしいんだが、彼はもともと魔法は受け入れるべきだと思っているらしい。便利なことも多いからな。そして、王宮にはずっと放置状態のロストがある。それがよい効果だったら、偏見をなくす足がかりになるのではないかと思っているらしい」
確かに筋は通っているように思えた。だが、とレナールは続ける。
「問題は、助手の方もご一緒に、とわざわざ書き添えてあったことだ」
今度こそアリーセは大きく目を見開いた。
「助手というのは……」
「君のことだろうな。俺は君以外に助手を取ったことはない」
「……」
アリーセの脳裏によぎったのは、途中で放棄した形になった「贖罪」だった。
聖女だと公表したことで、アリーセの名前はピリエの中ではそれなりに知られるようになった。それがラウフェンの関係者の耳に入ったとしたら?
アリーセを取り戻すために、この依頼が来た可能性もある。王太子から、というのは驚きだが、監視者の一族は貴族のようにも見えたからつながりがあってもおかしくない。レナールも同じことを危惧しているのだろう。
王太子は関係なくても、裏で監視者の一族が手を引いている可能性もある。
レナールの王宮魔法使いとしての出勤日。昼過ぎから出かけていたレナールは、しかめっ面で研究室に戻ってきた。
(どうしたんだろう?)
定例の会議にしてはいつもより時間がかかったように思える。
本を読む手を止めて声をかけるかどうか迷っていると、レナールの方からアリーセの名前を呼んできた。
「アリーセ。ちょっといいか?」
レナールは自分の席ではなく、実験用の机の前に座っていた。アリーセが近くに来ると、椅子に座れと促してくる。最初から、お互い座って話せるように場所を選んでいたのだろう。
「何でしょうか?」
わざわざアリーセを呼ぶと言うことは聖女に関わることだろうか。しかし、アリーセが腰をかけるのを待ってレナールが口にした言葉は違っていた。
「再来週、ラウフェンへ行くことになった」
「――え?」
急に出てきた祖国の名前にアリーセは驚く。
「俺にロストの鑑定をしてほしいそうだ。ラウフェンの王太子から正式に依頼があった」
レナールは苦い顔で続ける。
(どうしてラウフェンがロストの鑑定なんて頼むの?)
ラウフェンは魔法を忌み嫌っている。ロストだって魔法道具の一種だ。なのに。
「ユーグが個人的にラウフェンの王太子と知り合いらしいんだが、彼はもともと魔法は受け入れるべきだと思っているらしい。便利なことも多いからな。そして、王宮にはずっと放置状態のロストがある。それがよい効果だったら、偏見をなくす足がかりになるのではないかと思っているらしい」
確かに筋は通っているように思えた。だが、とレナールは続ける。
「問題は、助手の方もご一緒に、とわざわざ書き添えてあったことだ」
今度こそアリーセは大きく目を見開いた。
「助手というのは……」
「君のことだろうな。俺は君以外に助手を取ったことはない」
「……」
アリーセの脳裏によぎったのは、途中で放棄した形になった「贖罪」だった。
聖女だと公表したことで、アリーセの名前はピリエの中ではそれなりに知られるようになった。それがラウフェンの関係者の耳に入ったとしたら?
アリーセを取り戻すために、この依頼が来た可能性もある。王太子から、というのは驚きだが、監視者の一族は貴族のようにも見えたからつながりがあってもおかしくない。レナールも同じことを危惧しているのだろう。
王太子は関係なくても、裏で監視者の一族が手を引いている可能性もある。