魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
 魔法へのスタンスの違いから、ピリエとラウフェンは隣国ながら国交が少なかった。だが、農業大国であるラウフェンとは、以前から国交を深めたいと考える者が多かったらしい。

「二国間の絆を深めるチャンスだと思われている。我が国の高官は、君がラウフェン出身だということを知っているが、その置かれていた状況までは知らないから」
「つまり、私もラウフェンへ行かなければならないということですね」
「そうなる。すまない」

 レナールの表情は苦渋に満ちている。本心からアリーセをラウフェンに行かせたくないのだということが伝わってきた。

 もし、ここでアリーセが嫌だと言ったら、レナールはどんな力をつかってでもアリーセがラウフェンに行かなくて済むよう調整してくれるだろう。たとえ周囲からどんな言葉で罵られようとも。

「もちろん、君がどうしても……」
「行きます」

 アリーセはレナールの言葉を遮って宣言した。
 アリーセが行かないことでレナールの立場が悪くなることは絶対に避けたい。
 それに――知りたいと思ったのだ。
 アリーセの魔力は何に使われていたのか、を。
 あの水晶玉は本当にロストなのか。ラウフェンに行けば知るチャンスがあるかもしれない。

「いいのか?」
「はい。不可抗力だったとはいえ、半端な形でラウフェンから出てしまったので気になっていたんです。行って状況を確認して、そしてレナール様と一緒にピリエに帰ってきます」

 アリーセは力強く宣言した。何を言われようとラウフェンに残るつもりはない。その気持ちを最後の言葉に込める。
 レナールがまっすぐなまなざしをアリーセに返す。

「ありがとう。アリーセ。俺も君をラウフェンに渡すようなことはしない」

 不安がないと言えば嘘になる。
 けれど、レナールがいれば大丈夫だ。不思議とそう信じられた。
 ラウフェン。
 ――アリーセの生まれた国。そして。
 魔女を――魔法を忌み嫌う国。
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