魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
13 ラウフェン王宮のロスト
ピリエの王都オベールからラウフェンの王都ジーゲルトまでは、馬車で約二週間の道のり。外交官も同行するし、そもそもレナールは指折りの高位貴族。人買いの馬車に乗せられた過酷な旅とは比べものにならないくらい快適だ。
(ここがラウフェン王宮……)
馬車がラウフェンの王宮に着いたのは、お昼を少し過ぎた時間だった。
レナールの手を借りて、馬車から降りる。目が合うと、レナールはこちらを励ますように微笑んでくれた。アリーセもうなずく。
ラウフェンの目的が、アリーセを取り戻すことだった場合、王宮は敵地だと言ってもいい。だとしても、いきなり強硬手段に出ることはないだろう。それがレナールの見方だ。アリーセもそう思う。
正式な招待を受けてアリーセたちはここに来ているのだから、国際問題になるようなことを起こすつもりはないはずだ。
もちろん、王太子に他意はない可能性もある。が、慎重になるに越したことはない。
ラウフェン王宮は、曲線を多用した華やかな建物だった。装飾がとにかく細かい。その金色の加飾の絢爛さに圧倒されてしまいそうになる。
アリーセたちを迎えてくれたのは、フィン・ダウムという名の若い文官だった。ラウフェンの人間らしく、アリーセと同じ金色の髪。目は緑だった。紺色の上下に身を纏った彼は、無表情のまま労いの言葉を述べると、依頼人が待つという部屋まで案内してくれる。
今日のアリーセは落ち着いた紺色のドレスを着ている。シンプルだが王宮に上がるには十分な質のものだ。レナールは黒のコートとトラウザーズだが、王宮に出仕するときよりも装飾が多いものを選んでいる。クラバットはシャツと同じ白だった。
フィンに案内されたのは、王宮の一室だった。どうやら王太子の執務室らしい。落ち着いた内装で、高級そうな机や応接セット、本棚が置かれている。ユーグの執務室と同じような印象だが、違うのは机が一つしかないことだろう。
「遠路はるばるようこそラウフェンへ」
流ちょうなピリエ語で出迎えてくれたのは、プラチナブロンドに緑の瞳が印象的な男性だった。年齢はレナールと同じくらいだろうか。背も同じくらいだ。女性受けしそうな甘い顔立ちをしている。上着こそ黒だが、トラウザーズは明るい色だった。
(この方が、王太子殿下……)
アリーセは彼の顔立ちに――既視感を覚える。
「私がラウフェン王国王太子、ブラッツ・コアト・ラウフェンだ。わざわざご足労いただきすまない」
「レナール・シェルヴェです。今はサヴィール子爵を名乗っております。こちらが、助手のアリーセ・フィネル」
「アリーセ・フィネルと申します。よろしくお願いいたします」
ブラッツの容貌に気を取られていたアリーセは、慌てて作法に則った挨拶をする。
「あなたはラウフェン出身という話を伺っているが」
穏やかな笑みを浮かべて尋ねてくるブラッツには、他意はないように思えた。
「はい。そうです」
緊張したアリーセはなんとか笑みを浮かべてそう答えるのが精一杯だった。
彼としても挨拶の一つだったのだろう。ブラッツはそれ以上話を広げることなく、レナールの方を見た。
(ここがラウフェン王宮……)
馬車がラウフェンの王宮に着いたのは、お昼を少し過ぎた時間だった。
レナールの手を借りて、馬車から降りる。目が合うと、レナールはこちらを励ますように微笑んでくれた。アリーセもうなずく。
ラウフェンの目的が、アリーセを取り戻すことだった場合、王宮は敵地だと言ってもいい。だとしても、いきなり強硬手段に出ることはないだろう。それがレナールの見方だ。アリーセもそう思う。
正式な招待を受けてアリーセたちはここに来ているのだから、国際問題になるようなことを起こすつもりはないはずだ。
もちろん、王太子に他意はない可能性もある。が、慎重になるに越したことはない。
ラウフェン王宮は、曲線を多用した華やかな建物だった。装飾がとにかく細かい。その金色の加飾の絢爛さに圧倒されてしまいそうになる。
アリーセたちを迎えてくれたのは、フィン・ダウムという名の若い文官だった。ラウフェンの人間らしく、アリーセと同じ金色の髪。目は緑だった。紺色の上下に身を纏った彼は、無表情のまま労いの言葉を述べると、依頼人が待つという部屋まで案内してくれる。
今日のアリーセは落ち着いた紺色のドレスを着ている。シンプルだが王宮に上がるには十分な質のものだ。レナールは黒のコートとトラウザーズだが、王宮に出仕するときよりも装飾が多いものを選んでいる。クラバットはシャツと同じ白だった。
フィンに案内されたのは、王宮の一室だった。どうやら王太子の執務室らしい。落ち着いた内装で、高級そうな机や応接セット、本棚が置かれている。ユーグの執務室と同じような印象だが、違うのは机が一つしかないことだろう。
「遠路はるばるようこそラウフェンへ」
流ちょうなピリエ語で出迎えてくれたのは、プラチナブロンドに緑の瞳が印象的な男性だった。年齢はレナールと同じくらいだろうか。背も同じくらいだ。女性受けしそうな甘い顔立ちをしている。上着こそ黒だが、トラウザーズは明るい色だった。
(この方が、王太子殿下……)
アリーセは彼の顔立ちに――既視感を覚える。
「私がラウフェン王国王太子、ブラッツ・コアト・ラウフェンだ。わざわざご足労いただきすまない」
「レナール・シェルヴェです。今はサヴィール子爵を名乗っております。こちらが、助手のアリーセ・フィネル」
「アリーセ・フィネルと申します。よろしくお願いいたします」
ブラッツの容貌に気を取られていたアリーセは、慌てて作法に則った挨拶をする。
「あなたはラウフェン出身という話を伺っているが」
穏やかな笑みを浮かべて尋ねてくるブラッツには、他意はないように思えた。
「はい。そうです」
緊張したアリーセはなんとか笑みを浮かべてそう答えるのが精一杯だった。
彼としても挨拶の一つだったのだろう。ブラッツはそれ以上話を広げることなく、レナールの方を見た。