魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
「私との会話はピリエ語でお願いできるか? 存じているとは思うが、我が国では魔法に対して偏見がある。王宮に出入りするような者は、魔法が使えるかもしれないというだけで非難はしない分別は持っているが、目の前で魔法を見たらどう反応するかはわからない。もちろん王宮にピリエ語を解する者は多くいるが、少しでも私のしようとしていることが露見する危険性を減らしたいのだ」

 ブラッツの要求はラウフェンの魔法嫌いを考えると妥当なものに思えた。

「わかりました」
「申し訳ない。私は他国を見て魔法の便利さを知っている。少しでも魔法への偏見をなくせたらとは思っているのだが、根深いものがあって難しいんだ。今回の依頼が少しでも足がかりになればいいのだが」
「ロストの鑑定というお話でしたが」
「ああ。王宮に放置してあるロストを鑑定してほしい。早速案内しよう」
「はい。よろしくお願いいたします」

 ブラッツは部屋の隅で控えていた文官に声をかける。彼も同行するらしい。

「フィンはピリエに留学経験があって、ピリエ語にも堪能だ。魔法への偏見もない。今回の件で私の気が回らない部分は彼に任せている。困ったことがあったら、彼に声をかけてほしい」

 フィンが黙って会釈をした。

「では。私のあとに」

 ロストは王宮の敷地内にあるという。
 ブラッツが部屋を出る。レナールがそれに続くとき、アリーセの顔を見て心配そうな顔をした。アリーセは大丈夫だと言うように小さくうなずく。
 ブラッツとレナールが並んで歩く。その後ろをフィンとアリーセがついて行く形になった。
 案内してくれたときも思ったが、フィンは世間話が好きなタイプではないらしい。前を歩く二人は何かを話しているようだが、こちらは沈黙が続いている。
 正直、それどころではなかったから、とてもありがたかった。
 目の前を歩くブラッツの後ろ姿を眺める。

(ジギワルド様によく似ていた)

 ブラッツは、アリーセに監視者の一人であるジギワルドにとてもよく似ていた。ジギワルドの方が優しげな顔立ちだけれど、目元はよく似ている。しかも、二人は髪と目の色が同じだ。
 ブラッツはこの国の王太子だ。そんな彼によく似たジギワルドは、王家の人間である可能性が高いのではないだろうか。そしてその場合。

(ジギワルド様がこの王宮内にいる可能性も高い)

 ジギワルドにはよくしてもらった。彼に対しては感謝の気持ちしかない。
 けれど、魔力の搾取という可能性に気づいてしまった今、改めて顔を合わせるのは少し怖かった。以前と同じ顔が出来る気がしない。
< 67 / 147 >

この作品をシェア

pagetop