魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
 幸いなことに、ジギワルドらしき人間とはすれ違わないまま、ロストがあるという小さな建物に到着した。石で出来たそれは他の建物より古く、外装もシンプルだった。絢爛な建築物ばかりのなか、ひっそりと建つ姿は異質だ。

「周囲とはすこし趣の違う建物ですね。ロストありきで建てられたものでしょうか」
「ああ。この建物はここに王宮が建てられる前からあったものだ。建設の際に建物を破壊する案も出たんだが、どういった影響がでるかわからず放置することになったらしい」

 屋内にあるロストの半分以上は、ロストありきで建てられた建物の中にあるという。残りは移設が可能だったもの。だが、吹きさらしになっているロストもかなり多い。そんなことをレナールが続ける。
 ブラッツが鍵を開けて建物の中に入る。古いが掃除はきちんとされているようで、きれいだった。建物入ってすぐが廊下になっており、扉が二つある。手前がロストがある部屋。奥は普通の部屋だという。
 ブラッツは、手前の部屋の扉を引いた。
 打ちっぱなしの壁と床。
 そんな空間の中に、レナールの身長ほどの高さもある黒い長方形の石がどんと中央に鎮座していた。これがロストだろう。温室のものよりは大きいが、デュラックのものよりは小さい。
 ロストを眺めていたブラッツが振り返ってこちらを見た。

「これがロストだ。子爵。あなたはロストの専門家だと伺っている。このロストについてどういった効果があるのか調べていただきたい。もし、有用なものだったら、何かしらの形で活用することを考えている」
「このロストについての伝承などは残っていないのですか?」
「今のところは。我が国は魔法は禁忌に近い。ロストについてもそれは同じだ」

 つまり、手がかりはないということだ。

「承知しました。滞在期間の中で、できる限りのことはいたしましょう。ただ、必ずしもいい効果ばかりとは限らないことだけご承知おきください」
「もちろんだ。――申し訳ない。時間のようだ。すまないがあとのことは、フィンから聞いてほしい」
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