魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
 本格的な作業は明日から行うことにして、アリーセたちはフィンに客室まで案内してもらうことになった。

 アリーセたちは、同行した外交官ともども王太子の客人ということになっている。一緒に来た外交官たちと共に、三週間ほど王宮に滞在する予定だ。明日は小規模ながら歓迎の夜会も開かれるという。

 客室は王宮の居住区に入る手前にあるという。荷物は既に運んであるらしい。
 ラウフェンの王宮だけあって、通り過ぎる人はアリーセと同じ金髪の人間が多い。ここでも、レナールの黒髪は特に目立ち、そして人の目を引いた。
 廊下をすれ違う人――主に女性がレナールに目を奪われているのがわかる。
 本人は向けられる熱視線をあまり気にしていないようだけれど。

(きっと、黒髪が珍しいからだ、とかそれくらいの認識なんだろうなあ)

 自国の王宮だが、アリーセにとっては初めての場所だ。きらびやかな内装よりも、ピリエの落ち着いた王宮の方が合うなと思ってしまい苦笑する。そんなとき。

「アリーセ……」

 ふと聞き覚えがある声に名前を呼ばれて、アリーセは思わず足を止めた。
 向こうから三人の男性が歩いて来ていた。アリーセの名前を呼んだのは、その中でも最もきらびやかな格好をした青年だった。

「どうした?」

 隣を歩いていたレナールが足を止める。フィンも怪訝そうに後ろを向いた。
 だがアリーセはそれどころではなかった。見覚えがある青年に視線は釘付けになる。
 虚を突かれたような顔をしていた相手が、意を決したようにアリーセに近づいてきた。側にいた男が慌てて青年に呼びかける。

「殿下!」

 青年は気にした様子もなく、アリーセの方に長い足でつかつかと歩み寄ってくる。
 そうして、アリーセの正面に立った彼は、かすれた声でアリーセに尋ねた。

「どうしてここにあなたがいるんだ。アリーセ」
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