魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
「アリーセ。君はジギワルド殿下とどういう仲だったんだ?」

 青い瞳がかすかに揺れている。
 レナールが固唾を呑んでアリーセの返答を待っていることに気づいた。

「ジギワルド様は私の監視者の一人でした」

 アリーセは正直に答える。前に、レナールには自分が置かれていた環境を軽く説明したことがある。監視者の存在もそこで話していた。

「監視者?」
「はい。数年前から月に一度くらいのペースで訪ねてきてくれた方です。魔女を忌み嫌って逃げ出す人も多い中、珍しくきちんと話してくれる人でした」

 レナールの青い目がアリーセの瞳を慎重に覗き込む。

「レナール様?」
「いや、そのすまない。すこし不安だったんだ」
「不安ですか?」

 レナールが不安を吐露するなんて珍しい。レナールが大真面目な顔で言う。

「君とジギワルド殿下が特別な仲だったらどうしようと思って、気が気ではなかった」
「――へ? ありませんよ。それは、確かによくしていただきましたけれど。でもそれだけです」

 アリーセは笑い飛ばした。どのような理由があれ、今、アリーセとレナールは婚約者同士なのだ。余計な誤解を生むようなことは避けるべきだろう。
 森の奥の家にいたときは、そういうことは意識的に考えないようにしていた。だって自分は忌み嫌われる魔女だから。自分を好きになってくれる男性などいない。

「それに、ジギワルド様には婚約者がいるはずです」

 自分を奴隷商に引き渡したのがその婚約者だと言うことはさすがに言えなかった。

「そうか。だが少なくとも殿下の方は――いや、いいか」

 レナールが首を振ると、まるで自分に言い聞かせるように呟く。

「今、君は俺の婚約者なのだから」
「そうですよ。私は、ジギワルド様が王族だったことも知りませんでしたし。今日、ブラッツ殿下とお会いしたとき、ジギワルド様によく似ていてびっくりしたんです」
「だから、ブラッツ殿下の顔を見て驚いていたんだな」

 やはりレナールはアリーセの様子に気づいていたらしい。

「はい。そうです。ジギワルド様が王族だとは思っていなかったので」
「だが、ロストの動力源として君の魔力を使っていたと考えると、そう不思議でもないように思える。国が秘密裏でロストを使っているのだとしたら、そこに王族が関わっていないわけがないだろう?」

 レナールはいつもの調子を取り戻していた。
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