魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
「それは確かに……そうですね。ただ、ブラッツ殿下は私に対して特に思うところはなさそうでした」
「王族、特に王太子は感情を易々と読み取られないように制御している場合もあるからそこは留意する必要がある。だが。王太子と第二王子では任せられている領域が違う可能性もある。もしくはジギワルド殿下の個人的な資質か」
「個人的な資質も大きいのかもしれないです」

 監視者の中でジギワルドだけが違った。ベルタを亡くしてからは、彼だけが話し相手だった。たぶん、一人になるアリーセのことを放っておけなかったのだろう。

「……」

 レナールがじっとこちらに迫ってくる。端正な顔に思ったより近くから見つめられて、アリーセは動揺した。

「ど、どうしたんですか?」
「こんなことはあまり言いたくないんだが――ジギワルド殿下にはあまり近づかないでほしい。明日の歓迎の夜会に彼が出席する可能性はある」

 レナールの声は大真面目だ。
 そうだった。明日、王太子の客を歓迎する夜会があるのだった。小規模な肩肘張ったものではないという話だが、そもそも平民でのアリーセには敷居が高い。

「は、はい。監視者の意図はわかりませんし、気をつけるようにします!」

 ジギワルドに救われた時期があることは確かだ。けれど、みすみす利用されるつもりはない。

「いや、それだけではないんだが……まあ、いいか」

 レナールがようやく離れてくれて、アリーセはほっとする。本当に心臓に悪い。

「約束だ。アリーセ」

 ふいにレナールがアリーセの耳元で囁く。驚いて頬を染めるアリーセに対して、レナールはいたずらが成功したように笑うと、アリーセの頭をくしゃりと撫でた。

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