魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
 ――どうやら、アリーセは奴隷商人に売られたらしい。

 アリーセはとある屋敷の一室に閉じ込められていた。窓枠には鉄格子がはまっており、ドアには外から鍵がかかっていて開かないようになっている。牢より少しマシな程度。手首にはめられた腕輪はもちろんそのままだ。

 ここはラウフェンの東にあるピリエ王国だという。そのカルタンという町の郊外にある屋敷。ついたのは、先ほどのことだ。
 あの日、薬で意識を失ったアリーセが目覚めたのは、馬車の荷台の中だった。慌てて小さな窓から外を見れば、見たこともない豊かな田園風景が広がっていて呆然とした。
 そしてその日の夜、アリーセの様子を見に来た男にこれからのことを説明される。

『大陸は広いんだよ、お嬢ちゃん。ラウフェンでは魔法――特に魔女は忌み嫌われているが、そうじゃない国もある。これから向かうピリエがそうだ。魔法が使える奴隷は重宝される。よかったな』

 全然よくない。
 アリーセは贖罪のために祈りを捧げないといけないのに。水晶玉への祈りは一日も欠かしたことがない。どんなに体調が悪くてもサボったことはなかった。一日でも早く許されたかったから。なのに。

『あんたも敵に回しちゃいけない人間を敵に回したのが運の尽きだ。ああ。逃げようと思っても無駄だぜ。魔法が使えるのが自分だけじゃないのは、あんたもさっき身をもって体験しただろう?』

 ああ。やっぱり。男は魔法を使ってアリーセの動きを封じたのだ。
 まさか、アリーセの他に魔法が使える人間がいるなんて。

『それに逃げたら魔封じの腕輪は一生外せないぜ』

 そんなことを言われてしまえば、アリーセは大人しくするしかなかった。
 そして、そのままアリーセはどこかの町で、別の商人らしき男に引き渡される。魔封じの腕輪はそのまま、馬車の荷台に放り込まれた。
 もう抵抗する気力は残っていなかった。
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