魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
 そんな話をしていると、周囲から視線を感じる。大体予想はつく。レナールへの憧れの視線だ。
 国が変わってもレナールの美貌は通用するらしく、女性たちの視線を一身に集めていた。ただ、隣にアリーセがいるので行動に出られない、と言ったところか。
 防波堤として役に立っているのならそれでいい。そんなことを思う。
 喉が渇いたので、飲み物をもらうことにした。給仕を待っているとまた別の貴族から声をかけられる。痩身の中年男性で、やはり話題は金属加工の話だった。

「ピリエの加工技術は素晴らしいですから、是非我が国にも取り入れられたらと思うのですよ」

 なめらかに話していた貴族が、ふと気づいたように視線を止める。

「と、ジギワルド殿下がいらしたようですね」

 ジギワルドという名前にアリーセの心臓がどきりとした。
 会場に入ったとき彼の姿はなかったのだが、どうやら遅れての参加らしい。
 社交用に薄い笑みを浮かべていたレナールの顔が一気にこわばった。が、おそらくその違いは付き合いが深くないとわからないだろう。

「アリーセ」

 ジギワルドがアリーセの名前を呼んでこちらに近づいてくる。金糸で刺繍が施された濃い緑の上下は彼の華やかさを引き立てていた。
 アリーセたちの前に立った彼はそこで初めて気づいたように言った。

「子爵とデューラー侯爵も一緒でしたか」

 話していた貴族――デューラー侯爵はジギワルドが真っ先にアリーセの名前を呼んだことが気になったらしい。アリーセがラウフェン出身だということは最初の自己紹介で述べている。

「ジギワルド殿下はアリーセ嬢とお知り合いなのですか?」
「ええ。ちょっと縁がありまして。昔からの知り合いなのです」

 隣にいるレナールの雰囲気がぴりついたのがわかった。

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