魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
「ジギワルド様。私はこれで」

 正体がばれないうちに彼女から離れた方が賢明だろう。アリーセはジギワルドに挨拶をしてバルコニーを去ろうとした。話は一通り終わっている。
 ミンディにべったり貼り付かれているジギワルドには気の毒だが、それは自力でどうにかしてほしい。あと、彼女はどうやら二面性があるようなので気をつけた方がいい。……これは余計なお世話かもしれないが。

「あ。ああ。その、先ほど言ったこと、忘れないでほしい」

 ジギワルドの様子に何かを感じ取ったのか、ミンディがアリーセに視線を向ける。アリーセは思わず肩を揺らしてしまった。会釈をしてすぐに去るつもりだったのに、それで少しだけラグができた。
 ミンディははっとした顔をすると、アリーセに向かって指をさして叫んだ。

「魔女だわ!」

 ミンディの高い声はバルコニーにいてもなおよく通った。
 魔女。その言葉に広間がざわめく。

「どうしてあなたがここにいるの! あの森から追い出したはずなのに。ジギワルド様を籠絡するのを諦めていなかったのね!」

 久しぶりに向けられる非難の声に、アリーセの頭が真っ白になる。

「クンケル侯爵令嬢!」

 ジギワルドが大きな声で咎めるが、彼女の耳には入っていない。

「ジギワルド様。この女は魔女です! だまされないで! 魔女! どうやってここに入り込んだの!」

 ミンディは鬼の形相で詰め寄ってくる。

(どうしよう)

 アリーセの脳裏によみがえるのは、十年前、石を投げられた記憶。悪いことなんてした覚えはまったくなかったのに。なのに。
 足が縫い止められたように動けない。
 人がこちらに集まってくるのがわかる。身体が震える。どうしよう。このまま魔女だとばれて――。

「アリーセ!」

 そのとき。アリーセの耳にレナールの声が届いた。
 はっと見れば、レナールががこちらに向かってこようと必死に人だかりをかき分けている。
 不思議なほど、それはアリーセに平静さをもたらした。

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