魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています

17 視線

 貴族たちが散っていく。ミンディは騒ぎに慌てた父親らしき男性に連れて行かれた。
 バルコニーには、アリーセとレナール、そしてジギワルドとブラッツの四人が取り残された。レナールはアリーセの肩を抱き寄せたままだ。

「アリーセ嬢。我が国の令嬢が非礼なまねをしてすまなかった」
「ブラッツ殿下。そんな、頭を下げられなくても大丈夫です。この場をおさめてくださったのは殿下ですから。感謝いたします」

 アリーセは慌てる。王族がそう簡単に頭を下げてはいけない。
 それに、令嬢は嘘を言ったわけではない。アリーセが魔女――魔法使いなのは確かだ。
 ただ、事実だとしてもそれはあの場で言うべきことではない。
 ブラッツも、アリーセが魔法を使えることは知っている。
 ブラッツがゆっくりと顔を上げた。

「万一にでも明日以降アリーセ嬢が魔女だという噂が流れたら、私が全力で否定をする。先ほどの令嬢には、王家からも正式に抗議をしよう。だから、このまま鑑定を続けていただきたい」
「わかりました。ただ、貴国での魔法使いの立ち位置は私も把握しております。少しでもアリーセに危害を加えるような何かがありましたら、すぐ帰国いたしますので」

 レナールの口調は淡々としていたが、その奥には怒りのようなものがあった。ただ、今アリーセはレナールに抱き寄せられていて、彼の顔までは見ることができない。

「ああ。もちろんだ。大切な婚約者が傷つけられそうな場所には滞在できない。当たり前の話だ」

 ブラッツが真面目な顔で答える。

「アリーセ嬢も、何か困ったことがあったら私に言ってくれ。フィンに伝えてもらえれば、私のところまで来るから」
「ありがとうございます」
「じゃあ、私たちは戻ろう。ジギワルド。子爵たちも身体が冷えないように気をつけて」

 ブラッツはそう言うとジギワルドを連れてバルコニーを出ていく。ジギワルドはなんとなくアリーセに言いたげなことがあったようだが、結局何も言わずに兄について行った。
 レナールと二人きりになる。
 肩を抱き寄せていた力が緩んだ。それに気づいたけれど、アリーセはなんとなくレナールに寄り添っていたい気分だった。

「ありがとうございます。魔女だって言われたとき、頭が真っ白になったんですけど、レナール様が私の名前を呼ぶ声が聞こえて、それで落ち着きを取り戻せました」

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