魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
 あの夜会から一週間。とりあえずアリーセは平穏に過ごしている。
 ブラッツがきちんとにらみをきかせているらしく、少なくとも表立ってアリーセを魔女だという者はいない。アリーセも堂々と王宮を歩くことにしている。
 ただ、一つ気にかかることがあった。

「……?」

 ロストのある建物へ向かう途中。ふとアリーセは視線を感じて足を止めた。

「アリーセ?」

 隣を歩いていたレナールがつられて止まる。

「いえ。その……気のせいかもしれないんですが、誰かに見られているような気がして」

 レナールがわずかに眉間にしわを寄せて、周囲を見回す。

「とりあえず怪しげな人物はいないようだが」
「はい。私が少し過敏になっているだけかもしれません」

 アリーセたちは再び歩き始める。

 ――歩いているときにアリーセが視線を感じること自体は珍しくない。

 ただ、それは主にレナールの隣を歩いているときの話で、それは大抵「何故こんな普通の女がレナール様の隣を歩いているんだ」というような類いの嫉妬の視線だ。
 けれど、ここ数日感じる視線は、それらとは質が違う気がする。気のせいかもしれないけれど。
 脳裏によぎるのは監視者の存在。ジギワルド以外に誰が監視者なのかはわからない。今は静かだけれど、密かに動いている可能性はあるだろう。
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