魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
「……帰るか?」
「とんでもないです。まだまだ鑑定終わっていないじゃないですか」

 軽くレナールをにらみつけると、レナールが苦笑した。

「わかっている。言ってみただけだ」

(半分本気で言っているくせに)

 だが、それもアリーセを思うがゆえだとわかっている。
 あの一件からレナールは輪をかけて過保護だ。アリーセが一人で出歩くのを嫌がる。まあ、用心してもしすぎることはないのだろう。
 アリーセとしても進んでラウフェン王宮を一人で歩きたいとは思わないので、それはかまわない。
 問題は、そんなレナールの様子を見て、フィンや同行した外交官、そしてブラッツまでが、レナールは婚約者にベタ惚れだ、と感心しているところだ。
 ある日の夕食、外交官の一人がニコニコしながらこんなことを言っていた。

『正直、子爵が婚約者殿にベタ甘だと聞いたときは眉唾だと思ったんですよ。他国の王女殿下からの結婚申し込みすら蹴ったあなたが、毎日熱心に送り迎えをするほどの女性だとは聞いていましたが、ここまで執心だとは思いませんでした』

 そして、レナールもそれを否定するそぶりも見せないのだ。

『そうですね。自分でも驚いています。――ただ、彼女を不安にさせるようなことはなるべく言わないでもらうと助かります』

 その後、慌てた外交官から他国の王女殿下からの結婚申し込みの話を聞かされた。
 ピリエを訪問した小国の王女様がレナールに一目惚れして大変だった話だ。もっとも、『子爵は一ミリたりとも王女殿下に心を動かしてはいませんでした』と力説されてしまったが。冷たい瞳であしらっていたのだという。なんとなく予想はつく、ような。
 そんな回想をしているうちに、建物へと着いた。

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