魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています

18 思い出の詰まった家

 ロストの解析はお世辞にも順調とは言えない。
 レナールの見覚えのない模様が多く、書物と付き合わせるのに時間がかかる。そのものズバリの形がない場合、似たような模様を探してそこから類推していくのだ。
 パズルを解き明かすような作業。地道だが、アリーセは嫌いではない。

 ロストのある部屋には、突き合わせ用に魔法回路の模様を書き付けた紙が散らばっている。部屋に用意してもらった机に向かい合うようにして、アリーセとレナールが座っていた。机の上もごちゃごちゃしている。

「浄化魔法の応用だとは思うんだが……」

 レナールが本を見ながらうなり声を上げる。
 今、彼が調べているのは魔法回路の核になるであろう部分だ。
 見比べているメモには、内部に複雑な模様を持つ円が描かれている。特徴的なのは円の中が二つの領域に分けられており、それぞれ別の模様になっていること。

「豊穣、ではないんですよね」
「ああ。この前のデュラックの件もあって、豊穣の魔法回路については調べた。ラウフェンでロストを使っている可能性もあったから、一通り形は覚えてきている」

 レナールはアリーセからメモを借りると、そこにさっと形を書き付ける。

「豊穣魔法は、円の中が三つにわけられている。この三つ目が豊穣の効果なんだ。だが、これは二つだろう。普通の浄化魔法だとは思うんだが、少し形が違う場所がある」

 浄化魔法の主な用途は、魔法回路に生まれる瘴気を消す、水や空気をきれいにする。

「まあ、悪いものだという感じはしない」

 面白いもので、いわゆる攻撃魔法など人に害をなす類いの魔法回路は、形が鋭角的なのだという。逆に浄化魔法など害のない魔法は曲線的になる。というのは、レナールの受け売りだ。
 そして、今、解き明かそうとしているロストに、角張った模様はない。
 レナールは大きく息をついた。

「一応もう少し何か効果がないか確認はしてみるが――ここについては正直に不明だと報告するしかないかもな。で、明日は休みにしようと思う。その、どこか行きたいところはないか?」

 レナールがこのように誘ってくれるとは思わなくて、アリーセはぽかんとしてしまった。

「いや、そのないのなら……」
「違います。あります! ただ、驚いただけで」
「俺は君の婚約者だ。むしろ今まで誘わなかったのがおかしいんだと思ってる」

 真顔で言い切られてしまった。

「それで、行きたいところとは?」
「――その、森の家に行きたいんです。私が住んでいた場所へ」

 律儀にジギワルドはアリーセの元に森の家への行き方のメモを届けてくれていた。意外と王都から近いので、日帰りも十分可能だろう。

「君の家というと」
「はい。私が祈りを捧げていた水晶玉――おそらくロストがあるところです」

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