魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
 翌日。
 アリーセとレナールの二人は早朝から王宮を出て、借りた馬車に揺られていた。
 目的地はもちろん森の家だ。

 目的地が目的地なので、アリーセもレナールも庶民的な格好をしている。元々庶民のアリーセはともかく、レナールはシンプルなシャツと茶色のズボンという組み合わせでも貴族に見えてしまう。まあ、今回はお忍びで町を探索するわけではないから、それでもいいのだろう。

 途中、小麦を収穫している光景が見えた。収穫を待つ小麦が畑を黄金色に染めていて、十分な収穫量があるようにアリーセには思える。
 レナールも同じことを考えていたらしい。顔を見合わせてしまった。

 三時間近く揺られて、ようやくペルケ村にたどり着く。
 最後に訪ねたのは十年前だが、こぢんまりとした村はアリーセの記憶とあまり変わっていなかった。
 この村の人々はアリーセを魔女だと知っている。なので、アリーセはどうしても緊張してしまう。

(大丈夫。森の入り口までは馬車で行くのだから)

 一応、森の中も馬車が通れるよう最低限道は整備してあるけれど、あまり関係のない人間に知られてよいものではない。森の前で馬車から降りて、あとは徒歩で行くことにしたのだ。馬車は村の宿で待機してもらうように話はついている。

「アリーセ。大丈夫か?」
「はい」

 心配そうに顔を覗き込んでくるレナールに、アリーセはこくりとうなずいた。
 森の入り口で、アリーセたちは馬車から降りた。
 鬱蒼とした森の中。馬車がギリギリ通れるくらいの道を徒歩で三十分ほど。
 見覚えのある赤い屋根の家が見えてくる。懐かしさがこみ上げてきた。

「ここが君の住んでいた家か」
「はい。もっと荒れているのかと思いましたが、意外と普通ですね」

 アリーセは鍵を開けて中に入る。部屋の中もそのままにされているようだ。アリーセが男とやり合った痕跡がそのまま残っている。

「レナール様。どうしたんですか?」

 レナールは玄関先で少し悩んでいるようだった。

「いや、ここは君のテリトリーだから入ってよいものかと」

 遠慮深いな、とアリーセは思わず微笑んでしまった。

「よいに決まってますよ。それに、入ってもらわないと祈りの間の確認が出来ません」

 それもそうだな、とレナールは意を決したように家の中に足を踏み入れる。

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